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逆境を力に変える田中隼磨が松本とともに這い上がる

松本の田中隼磨。写真:上岸卓史/(C)Takashi UEGISHI

松本山雅が見せた昨季より強度の高い組織的守備。「それが当たり前。結果を残さなければ」

[J1 9節] FC東京 2-0 松本/2019年4月28日/味の素スタジアム

 松本山雅FCの田中隼磨が4月28日のFC東京戦、3-4-2-1の右ウイングバックでリーグ5試合連続フル出場を果たした。何度か高い位置で起点になったがゴールを奪えず、試合は0-2で敗れた。

「(44分に与えた先制点は)『このまま(無失点で)前半はいこう』と選手みんなが思っていたなか、自分たちのボールになったあとに取られてしまった。時間帯といい、やられ方といい、本当にダメージがデカかった。失点しないことがプライオリティ(優先順位)の一番だったところで、失点をしてしまえば、プランが崩れてしまう。どんな相手でも防げる失点だった。その点は反省しなければいけないです」

 チャンスから一転、ボールを奪われて相手のショートカウンターが発動。とにかく止めにいった。が……、久保建英にかわされ、永井謙佑の自慢の快足を飛ばされてシュートを突き刺された。

「ある程度はできていた、では僕らはダメ。結果的に、相手の術中にハマり、完敗です。それを受け止めてやるしかないです。(久保のみならず)警戒しなければいけない選手がたくさんいるなか、ストロングなポイントを出させてしまった。個の能力で適わなければ、チームとして止めなければいけない。今回そういった肌で感じたことを、次に生かすしかないです」

 田中はそのように完敗を受け止め、「体感」したことを次戦に生かすべきだと強調した。

 昨季はシーズン途中に何度か、そして今季は開幕から、田中はベンチスタートに甘んじる時期が続いた。しかし、必ず彼は再びポジションを奪い返し、そしてチームを勝たせてきた。松本が必要とする「結果」を残す男でもある。

 とはいえ、もちろんJ1の舞台はシビアだ。常に厳しい戦いが待っている。相手も松本相手に是が非でも勝点3を狙ってくる。

 そのなかで組織化されたディフェンスは、昨年以上にソリッドで綿密で、高い集中を保っていた。FC東京戦の先制点の場面は、その松本の体を張った守備をことごとくかわした久保が、一枚上手だったと言えただろう。むしろ体力の落ちる試合終盤のほうが、今後はスペースを与えてリスクがあるように感じた。

「もちろんJ2とJ1では舞台が異なり、まったくレベルが違います。(昨年よりも)上回らなければいけないし、それが当たり前。ただ、上回るだけではなくて、結果を出すことが僕たちには求められていることです」

 プロ19年目、36歳の田中はそのように話す。結果が出なければ、「良い」とは言えない、と強調した。

 松本は4年前、最終的に年間15位のアルビレックス新潟とは6ポイント差をつけられ、16位でJ2に降格している。当時の経験もまた生きてきているのではないか。しかし田中は首を振る。

「(4年前の)前回のJ1を知る選手は数人なので、比べるのはフェアではないと思っています。もちろん僕自身はその一人。それをどのように伝えていくかは大切だと感じています」

 4年前とはまったく違うチームで戦っている。このチーム、この1年に――、すべてを懸ける。そういう決意を込めていることが伝わってくる。

 FC東京戦でまざまざと力の差を見せつけられた。この敗戦をどのように咀嚼して吸収するか。しかも、ここからのリーグ戦、セレッソ大阪、北海道コンサドーレ札幌、鹿島アントラーズ、名古屋グランパスと、地力のあるチームとの対戦が続く。「連敗だけは避けなければいけない」と、田中は再び気を引き締める。踏ん張りどころ。いや、常に踏ん張りどころが続く。

 しかし松本には、この男がいる。逆境をことごとく力に変えてきた田中が、松本を這い上がらせる。この地で生まれ育った彼が、松本とともに這い上がる。

取材・文:塚越始
text by Hajime TSUKAKOSHI

Posted by 塚越始

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