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【U-23日本代表│戦術的考察】選手が「闘えていない」と感じるのは3-4-2-1の約束事を落とし込めずにいる森保監督の責任だ

決して派手な存在ではないものの札幌の菅大輝は、3-4-2-1を継続するのであればキーパーソンになるはず。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

なぜ、クロス一辺倒? 球離れの遅さも変わらず。4-2-3-1のように「選手任せ」では機能しない。

[タイU-23アジア選手権 GS2節] 日本 1-2 シリア /2020年1月12日/タマサート・スタジアム

 タイU-23アジア選手権のグループステージ( GS )2節、東京オリンピックチームにあたるU-23日本代表がU-23シリア代表に1-2で敗れ、サウジアラビア戦に続く2連敗で早々にグループステージ敗退が決まった。

 森保一監督はこの年代に、3-4-2-1布陣を採用してきた。

 ところが、ここ最近、ほとんど機能していると言えない。

 最近結果を残したのは、E-1東アジア選手権の香港代表戦(〇5-0)、昨年末のU-23ジャマイカ代表戦(〇9-0)ぐらい。そういった練習試合の様相を呈したなか、約束事が浸透し、好循環が生まれていけば……と思われた。

 しかし今大会の2試合など、ある程度力のあるチームが相手だと、まるで機能しなくなる。

 日本代表(A代表)での森保監督は4-2-3-1を基本フォーメーションにしてきた。オーソドックスな形であり、各ポジションの役割も明確で、誰が入ってもある程度すぐ対応できる。

 ただ、そのオーソドックスな布陣だけでは、世界のベスト8より先を見据えた時、間違いなく相手と与しやすいとは言えなくなる。ロシア・ワールドカップ(W杯)のベルギー戦(●2-3)のように、力のあるチームとマッチアップによる”力技”に持ち込まれると、後手に回らざるを得なくなってしまうからだ。

 そこでサンフレッチェ広島にて、3-4-2-1を基本布陣に3度のリーグ制覇を成し遂げた森保監督が登用された。両ウイングバックやストッパーを含めた攻撃参加、運動量とテクニックを武器に、全員で攻撃を組み立て、全員で守ることができる――そんなまさに「全員攻撃・全員守備」を具現化したシステムである。

 ところが森保監督はこれまでのU-23代表と日本代表で、3-4-2-1でも、選手に約束事を徹底させているように見えない。少なからず伝えているはずだが、ちょっと遠慮がち。

 むしろ、自由。乱暴な言い方をすると、選手任せ。

 久保建英や堂安律が参戦した昨年のU-22コロンビア代表戦でも、E-1東アジア選手権の日韓戦でも、今回の2試合でも、アタッカー陣の球離れがあまりに悪すぎる。

 とりあえずボールを持った選手がアピールせんとばかりに仕掛けていく。それがダメであれば作り直す。そうする間に相手はゴール前を固められる。連動して崩すシーンはほとんどなく、その繰り返し。

 結局、サウジアラビア戦の食野涼太郎、今回のシリア戦の相馬祐勇紀といい、「個」の力で崩し切っている。

 しかも基本的に狙う攻撃パターンは、ウイングバックのクロスばかり。

 3-4-2-1はそもそも「クロス優先」で効果を発揮する布陣であるのだろうか?

 そのあたり、森保監督はクロス集中型でいいと考えているのか、あくまでも選手の判断に任せているのか。いずれにせよ、チームとして、攻撃のオーガナイズがされていないままだ。

 森保式3-4-2-1はチャンスの際、両ウイングバックが前線へ張り出す5トップのような陣形になる。相手がリトリートするまでに、サイドから逆サイドへ、素早くパスをつなぐかキック一発で振り、4バック相手であれば数的優位を生かして攻め崩す。

 そうやってサイドに意識を持たせておいて、理想は中央からの打開。矢の先端部にあたる1トップ2シャドーの連係から崩し切る。

 ざっくり言うと、「え!そんなところから出てきたのか!!」というシーンが多いと、連動していると言える。

 サウジアラビア戦では何度か惜しいシーンがあった。が、その攻撃の再現が続かない。

 シリア戦、再びそうした狙いが特に感じられないまま、それぞれは頑張っているが、それぞれが「個」で強引に仕掛けるだけ。アピール合戦の様相に逆戻りだった。

 森保監督は「勝負どころで決め切ること」を課題に挙げ、狙い通りにボールを保持できていて、決して戦術的な面で問題があるとは感じていないようである。

 しかし日本代表の西野朗前監督のように、基本的に”選手任せ”にするのであれば、3-4-2-1はまず機能しないと言って過言ではない。

 よく数字上のフォーメーションは関係ない、と言われる。ただ、4-2-3-1と、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督(北海道コンサドーレ札幌)のスタイルから発展した森保式3-4-2-1は、ポジションごとの役割も異なり、それぞれに多くの約束事が課される。

 シリア戦でゴールを決めた相馬は試合後、「球際で闘えていなかったから、この結果になってしまった」と悔しそうに語った。しかし――。

佐藤寿人、興梠慎三、小林悠、鈴木武蔵やジェイ、オナイウ…センターフォワードがハマると見違えるように機能する布陣でもある。

 球際に思い切っていけないのは、決して選手だけの責任ではない。むしろ、ボールの奪いどころであり、トランジションからの攻撃の意図であり、そういった共有意識を作れず、約束事をいまだに徹底できずにいる森保監督の責任こそ重たい。

 この年代はヨーロッパでプレーする選手も多い。パッと集まって結果を残すためには、4-2-3-1を基本布陣にして”自由”を与えるのも一つの手だ。

 もしも3-4-2-1に森保監督がこだわるのであれば、その布陣で生きる人材をもっと活用すべきだ。ウイングバックの”旨味”を知っている札幌の菅大輝は、もう少し重宝されていもいいように思う。

 あとは、センターフォワード。森保監督が広島を率いていた時の佐藤寿人、浦和レッズの興梠慎三、現札幌の鈴木武蔵(やジェイ)、4バックにも3バックにも対応できる川崎フロンターレの小林悠、昨季大分トリニータで飛躍したオナイウ阿道(→横浜F・マリノス)。3-4-2-1は、センターフォワードがハマると、見違えるように機能する。

 上田綺世、小川航基、さらには一美和成や前田大然らが一皮むけるのを待つのか。それともオーバーエイジに懸けるのか。オーバーエイジを採用するのであれば、東京五輪初戦から時間を逆算できる点はメリットに挙げられる。であれば、今後の限られた実戦のなか、次からテストを行っていくべきだ。

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[文:塚越 始]

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