【ミシャ戦術考察】菅大輝が見せた「47分の戸惑い」。思い出した宇賀神友弥の言葉

今季札幌を率いるペトロヴィッチ監督。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

一般的ではない5トップ。「当初、ミシャから『絶対にワイドの選手は戻るな』と口酸っぱく言われ続けた」。

 コンサドーレ札幌はミシャ戦術をモノにできるのか――。その議論はしばらく続きそうだ。

 3-4-2-1を基本布陣にする愛称ミシャことミハイロ・ペトロヴィッチ監督の戦い方の特徴として、ボールキープしたときに前線が5トップになる点が挙げられる。ウイングバック(WB)は「FW」にも、「DF」として5バックにも対応しなければならない。

 敵陣の高い位置でパスを待ち構えていても、ボールを失えばすぐさまリトリートしないといけない。ミシャが昨季まで率いた浦和レッズの選手たちは3-4-2-1のWBについて、「日本一きついポジション」と評していたほど。かなりのハードワークが要求されるわけだ。

 J1・1節のサンフレッチェ広島戦。やはり公式戦は練習試合と異なり、札幌の選手の中にはミシャスタイルにやや戸惑う姿が見られた。特に左WBの菅大輝。浦和で2年近くミシャ戦術に触れている右WBの駒井善成とは対照的に、菅は手探りでプレーしているようだった。

 例えば33分、前線に張り出しながらロングフィードが目の前でインターセプトされると、慌ててその選手を後ろから止めてファウルに。後半開始直後にも、進藤亮佑の鋭いサイドチェンジを受けながら、呆気なくミスパスをしてしまう。他にもクロスなのか、カットインなのか躊躇う様子も見られた。

 そんななか47分、駒井のクロスに三好康児がヘッドで合わせチャンスを作った直後のだった。再び右に開いていた駒井がクロスを放つと、ペナルティエリアでチャナティップがDFと空中で競り合い、逆サイドまでボールが抜けてきた。しかし、張り出していた菅だったが反応が遅れ、ゴールラインまでボールを追ったものの川辺駿にカットされてしまう。せっかく前線にいながら、予測できていなかったのだ。

 その場面を見て思い出したのが、浦和の宇賀神友弥の言葉だった。彼はミシャ就任当初の控えから不動の左WBの地位を築いている。

「当初、ミシャから『絶対にワイドの選手は戻るな』と口酸っぱく言われ続けた。一方のサイドが上がれば、一方は引き気味でプレーするという一般的な考えが、どうしても体に染み付いていた。実際、最初はなかなかボールが来ないから下がってパスをもらおうとしていた。すると、だから引くな! と。それからずっと信じてやっていくと、あるとき、『これか』というタイミングでボールが入ってくるようになった」

 サイドからサイドへ――ミシャ戦術に馴染んだ宇賀神や元広島のミキッチ(現・湘南ベルマーレ)であれば、そこに猛烈な勢いで飛び出し、さらに揺さぶりをかけていただろう。菅も、おお本当にボールが来た、と実体験したシーンだったのではないか。

 もちろんリードする広島が基本的に自陣を固めていたので、札幌が5トップの陣形で長い時間、主導権を”握らせてもらっていた”とも言えた展開だった。今後、札幌陣内のサイドにできた広いスペースを攻略しようと試みるチームは間違いなく出てくる。その対策もまた必要だ。

 そのあと菅が強引に仕掛けるシーンを何度か作り、チャンスになりかけた。が、前線と息が合わないまま、59分に石川直樹への交代を告げられている。

 仲間を信じて攻める勇気。抽象的だが、それがミシャ戦術の大切な要素か。それでボールを奪われたら命取りだ、というのは正論だ。ただ、まずは信じた先に、どんな世界が広がっているのか。「守備の戦術は基本的に数えるほど。攻撃は無限に広がっている」と持論を語り、どんどんポジティブに攻撃の発想を展開していくのがミシャ流だ。

 躍動感ある若手も多く、今季の札幌は徹底的に走るチームになるのでは? キックオフカンファレンスで質問すると、ミシャは言った。

「それはマストだ。走らなければ、勝てない」

 笑っていたが、言葉には力がこめられていた。浦和でも、広島でもない、札幌の新たなスタイルがこれから築かれていく。

文:塚越始
text by Hajime TSUKAKOSHI

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