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【なでしこ】大野忍が鮫島彩との対決で「新発見です!」

INACの鮫島彩(左)とマッチアップしたノジマステラの大野忍(右)。この一戦で、大野はサッカーの楽しさを「新発見」したという。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

女子W杯で世界一。ストライカーが新天地ノジマステラでボール奪取の「楽しみ」を知る。

 決勝に進む「1枠」をA、Bの両グループで争うなでしこリーグカップは、いよいよ終盤に差し掛かっている。グループBでは7月1日、首位のINAC神戸レオネッサと勝点3差で追うノジマステラ神奈川相模原が対戦し、激しい攻防の末に1-1で引き分けた。

 強風のなか、両チームが主導権を握り合いながら試合は進む。INACは髙瀬愛実と岩渕真奈が2トップを組むなど鈴木俊監督が大胆なトライをするなか、ノジマステラも懸命に凌ぎカウンターでゴールを狙った。

 先制点はホームの声援に後押しされたノジマステラの田中陽子と南野亜里沙のコンビプレーから生まれた。そしてその後は、攻め込まれても持ち前の粘り強い守備と切り替えの速さを駆使して凌いでいったが……、終了間際、交代出場のINAC島袋奈美恵にゴールを奪われ、首位攻防戦は1-1の痛み分けに終わった。

 あと一歩で勝ち切れなかったノジマステラだが、選手の表情は決して暗くなかった。ここまでチームで取り組んできたパスワークやポジショニングが局面に応じて”勝負できる”まで引き上げられてきたことを実感したからだろう。練習の賜物と言えるワンツーからチャンスは生まれていた。

 チームの成長の陰に、個々のステップアップがある。

 INACから今季加入した大野忍はノジマステラで“新たな自分”を見つけた。この古巣との一戦、右サイドハーフの大野は、なでしこジャパンでも頭角を表す突破力が武器の増矢理花、その後ろに鮫島彩という強力な二人と対峙しなければならなかった。

 シュート、パス、ポジショニング……大野の技術は日本でもトップクラス。ただ、彼女の最大の強みに挙げられるのは、その戦術眼だ。スペースの使い方一つを取っても、世界と戦ってきた経験値の高さを感じる。

 しかしこの日、目を引いたのは、大野の代名詞的なゴールに絡むプレーではなかった。彼女がサイドバックの鮫島からボールを奪った守備の場面だった。

 彼女がこれまで在籍した日テレ・ベレーザやINACではストライカーの役割を担った。守備者として相手と対峙する機会はほとんどなかった。大野の選択肢に、それを入れる必要がなかった。

 もちろんノジマステラでもゴールゲッターとしての責任を受け持つ。この日は鮫島にクロスを入れさせる怖さを元チームメイトとして知っていたからこそ、守備の意識が働いた。加えて大野が見出したのは、その先の“楽しさ”だった。

「サイドバックから(パスを含め)ボールを奪えたら、自分の駆け引き次第で裏を取ればカウンターに行ける。そう考えたら守備がしんどくないんです」

 大野は嬉しそうに前線に繰り出そうとした鮫島からボールを奪った場面を振り返った。元々、切り替えの速さは武器の一つ。しかしボールを奪うことに”楽しみ”を見出すようなタイプではなかっただけに驚かされた。

「新発見です(笑)」と、彼女自身も自分に驚き、照れ笑いを浮かべていた。

大野(22番)の攻撃のセンスは今なお光る。さらに――。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

 チーム最年長の34歳。2010年のFIFA女子ワールドカップ(W杯)・ドイツ大会で世界一の景色を知る経験値が、一つ一つコツコツと積み上げてきたノジマステラという若いチームにどう影響するのか。大野にとっても、チームにとっても賭けだったように思う。

 だが、すべては杞憂に終わった。大野自身に新たな可能性が生まれていること、何より本人が心底楽しんでいることに感嘆させられた。

「ノジマステラに移籍してきて、どうやって勝つかっていうのを本当に考えるようになったんです」

 日本女子サッカーのあらゆる歴史的な瞬間を、ピッチ上でその足で体験してきた。そんな歴戦の大野は、改めて原点に立ち返っている。

 足りないことを数えたらきりがない。ただ、できることは無限にある。もう一段階積み上げたいと誰もが貪欲なノジマステラだからこそ、新たな大野の姿を見ることができたのだ。

 シーズン後半戦、ノジマステラの戦いに期待せずにはいられない。いつ解き放たれても不思議ではない才能の原石が散りばめられた若いチームだ。大野とともに、こちらの想像を軽々と超えるように原石は宝石となり、眩い輝きを放ってくれそうな気がする。

取材・文:早草紀子
text by Noriko HAYAKUSA

Posted by 早草紀子

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