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【現役GK視点のW杯】「ナバスはナチュラル。ドイツの壁作りに『隙』」塩田仁史(大宮)/注目選手編

GKの視点に立って見たロシアW杯について語ってくれた、大宮アルディージャの塩田仁史 協力:大宮アルディージャ

メキシコ戦の失点時に見せたノイアーの駆け引きの妙とは——。

——塩田選手は大宮で、Jリーグ15年目のシーズンを送っています。今回GK目線でFIFAワールドカップ・ロシア大会(ロシアW杯)をどのように見ているのかについて話を聞かせてください。W杯では、まずどのようなところをチェックしているのでしょうか?

 世界中のGKが一堂に集結しているので、主要国のみならず、普段はなかなか目にできないメジャーではない各国リーグ所属の選手がいて、まずそこが面白い。

 スウェーデンのオルセン(コペンハーゲン)は、ロビン(シモビッチ)の友人で一緒にプレーしていたことがあるそうです(スウェーデン2部クラグスハムンで11年にプレー)。ロビンは「アイツは今度ビッグクラブに行くよ」と話していましたけど、そういった意外な接点があったりする。

 あと190センチ台が現代サッカーには求められるようになるなか、アジア代表では、イランのベイランバンド(ペルセポリス)は194センチあり、クリスチアーノ・ロナウドのPKを止めて勝点をもたらし、脚光を浴びました。彼はイランリーグの所属。Jリーグと位置づけ的には変わらないクラブから出ている選手の活躍ぶりを見ると嬉しくもなります。Jリーグもきっと捨てたもんじゃないと勇気を与えてくれます。

 一方で、やはり自分と同じぐらいのサイズの選手も多く出場しているので、プレーなどチェックしています。

——190センチ台の優秀なGKと言っても、今なおごく限られていますね。

 180センチ台が多い日本人のGKは高いレベルでどのように戦えばいいのか? そのヒントがW杯にあると感じます。コロンビア代表のオスピナ(アーセナル)は183センチだけど、どんなに劣勢であろうと落ち着いていて、チームが苦しいときに支え、日本戦ではセットプレー以外はすべて止めていました。

 コスタリカ代表のナバス(R・マドリー)は自分と同じ185センチで、CLに続き、W杯でもいいプレーをしているので参考になります。

 彼はいろんな「芯」がブレない。「よし、シュートを打ちます」とキッカーがモーションに入れば、GKはしっかり構えて対応することができます。ただ、基本的には1本のパス、キックが通るたび、少しずつ移動が続きます。常に体幹でありメンタルであり、芯がブレないことが求められる。でもGKは心が揺さぶられるポジションですから、なかなか難しい。ただ、いかなる状況であっても、いつでも「構える」ことができる状態にしておきたい。その点、ナバスは常にその微修正を含めた動きがナチュラル。ナチュラルに次の動作へ行けて、ナチュラルにセーブにいける。あれは勉強になります。

——GKもまた一瞬一瞬、頭と心と体の切り替えが要求されているわけですね。

 GKの守る範囲は限られますが、背にするゴールに絶対に決めさせないのを前提に移動し、常に情報を確認し、少しずつ微修正を加えて自分の間合いを保ち続けるわけです。もちろんボールを持たない選手の位置によって、どこに攻め込んでくるのか予測も立てる。スペインのように細かくパスをつながれたら、体幹がブレてしまうことも出てくるでしょう。でもナバスは丁寧に修正し、ナチュラルに対応している。理想です。

 ただ、そんなナバスもクラブワールドカップで、中央からフリーで打たれて、柴崎岳に2点決められています。どんなにいいGKでも完璧はないんだと思わされます。

 だからノイアーのポジショニングも、あの体のサイズがありながら文句なし。さすが世界一と言われるだけあると思わされます。

——印象ではノイアーは試合勘が鈍っているのかなと感じましたが?

 W杯3大会目とあって、時間が経つごとに、イメージしているプレーに、しっかり体を慣らしてきているように見えます。メキシコ戦の失点シーン、あのときの対応も僕はすごいなと唸らされました。

——失点シーンでのノイアーが?

 はい、そうです。

——メキシコのカウンターが鮮やかすぎる、という視点でしか見ていませんでした……。

 最後、メキシコのイルビング・ロサノが切り返した瞬間、隙ができたのをノイアーは見逃さなかった。ポンってキッカーに対し、まっすぐ踏み込み、自分の間合いに持ち込んでいます。そこで、「あ、これ止めるかも!」という雰囲気を作っています。その間、コンマ何秒ですが。

 ただ、ロサノが蹴り込んだのはPKの11メートルよりも近い距離。しかも、正確にサイドを貫いたいいシュートでした。それにノイアーとしてはファーに来る可能性もあったので一瞬タイミングが遅れたけど、(反応して)しっかり飛んでいます。紙一重でした。あの最後まで諦めず間合いに持ち込んだ駆け引きの妙は、GKからすると、たまらなかったです(笑)。

——ビッグセーブなどに目が行きがちですが、ノイアーはそんな繊細に対応していたんですね。

 はい。一方で、メキシコのオチョアがドイツ代表のクロースの直接FKを左に飛んでセーブし、間一髪、バーに当てて止めたシーンがありました。

——彼も塩田選手と同じ185センチ。オチョアの真骨頂と言える、反応とジャンプ力が集約されたスーパーセーブでした。

 あのFKの場面、攻撃側のドイツの対応に、おや? と感じたことがありました。メキシコは壁を4枚作って守っていました。その壁の横から、キッカーのクロースがオチョアには丸見えです。だからオチョアからすれば、蹴るタイミングもすべてお見通し。

 ドイツが最善を尽くしてキックを決める確率を高めるのであれば、二枚(二人)ほど、メキシコの4人の横に目隠しの壁を立てるべきでした。だからGKの僕からすると、なぜ? と思いました。クロースのキックは枠を捉えていました。目隠しがあれば結果は違っていたかもしれない。ノイアーの細やかさと勝負勘に驚かされた一方で、ドイツのチームとしては、意外と隙があるのかなと感じました。

——すごい! そこまで見ているんですね。

 そういうところばかり目が行ってしまうんです(笑)。ドイツがセットプレーの対策をそこまでしていないのは意外でした。高さとパワーのある選手が常に揃っているから、セットプレーは大枠での決め事で十分なのかもしれません。その意味では、日本のセットプレーは緻密だと思います。左サイドからのCKに本田を起用して、狙った大迫が決めている。詰めの部分を入念に打ち合わせているように感じました。

PROFILE 塩田仁史 しおた・ひとし/1981年5月28日生まれ、茨城県日立市出身。日高SS-滑川中—水戸短大付属高ー流通経済大ーFC東京ー大宮アルディージャ。今季2試合0得点、J1通算91試合0得点、J2通算25試合0得点。現役15年目を迎え、J1復帰を目指すチームを支える頭脳派かつ闘魂のゴールキーパー。

※短期集中連載。次回は28日(木)「永嗣へ」、3回目(30日頃)「ルール改正とマリーシア」を掲載予定です。

Posted by 塚越始

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