【GK塩田仁史視点のロシアW杯】新ルール、VAR、盟友・川島永嗣、注目選手…│総集編

GKの視点に立って見たロシアW杯について語ってくれた、大宮アルディージャの塩田仁史 協力:大宮アルディージャ

GK必読! メキシコ戦の失点時に見せたノイアーの駆け引きの妙とは——。

Jリーグの現役ゴールキーパーがどのような視点でワールドカップを見ているのかを聞く短期連載を改めてまとめた。大宮アルディージャGK塩田仁史選手は、どのような選手のどのようなプレーに注目していたのか。盟友でもある川島に向けて伝えたメッセージとは。そして新ルールやVAR導入によるGKへの影響など、現役ならではのとても興味深い話をしてくれた。

——塩田選手は大宮で、Jリーグ15年目のシーズンを送っています。今回GK目線でFIFAワールドカップ・ロシア大会(ロシアW杯)をどのように見ているのかについて話を聞かせてください。W杯では、まずどのようなところをチェックしているのでしょうか?(連載1回目6月27日掲載)

 世界中のGKが一堂に集結しているので、主要国のみならず、普段はなかなか目にできないメジャーではない各国リーグ所属の選手がいて、まずそこが面白い。

 スウェーデンのオルセン(コペンハーゲン)は、ロビン(シモビッチ)の友人で一緒にプレーしていたことがあるそうです(スウェーデン2部クラグスハムンで11年にプレー)。ロビンは「アイツは今度ビッグクラブに行くよ」と話していましたけど、そういった意外な接点があったりする。

 あと190センチ台が現代サッカーには求められるようになるなか、アジア代表では、イランのベイランバンド(ペルセポリス)は194センチあり、クリスチアーノ・ロナウドのPKを止めて勝点をもたらし、脚光を浴びました。彼はイランリーグの所属。Jリーグと位置づけ的には変わらないクラブから出ている選手の活躍ぶりを見ると嬉しくもなります。Jリーグもきっと捨てたもんじゃないと勇気を与えてくれます。

 一方で、やはり自分と同じぐらいのサイズの選手も多く出場しているので、プレーなどチェックしています。

——190センチ台の優秀なGKと言っても、今なおごく限られていますね。

 180センチ台が多い日本人のGKは高いレベルでどのように戦えばいいのか? そのヒントがW杯にあると感じます。コロンビア代表のオスピナ(アーセナル)は183センチだけど、どんなに劣勢であろうと落ち着いていて、チームが苦しいときに支え、日本戦ではセットプレー以外はすべて止めていました。

 コスタリカ代表のナバス(R・マドリー)は自分と同じ185センチで、CLに続き、W杯でもいいプレーをしているので参考になります。

 彼はいろんな「芯」がブレない。「よし、シュートを打ちます」とキッカーがモーションに入れば、GKはしっかり構えて対応することができます。ただ、基本的には1本のパス、キックが通るたび、少しずつ移動が続きます。常に体幹でありメンタルであり、芯がブレないことが求められる。でもGKは心が揺さぶられるポジションですから、なかなか難しい。ただ、いかなる状況であっても、いつでも「構える」ことができる状態にしておきたい。その点、ナバスは常にその微修正を含めた動きがナチュラル。ナチュラルに次の動作へ行けて、ナチュラルにセーブにいける。あれは勉強になります。

——GKもまた一瞬一瞬、頭と心と体の切り替えが要求されているわけですね。

 GKの守る範囲は限られますが、背にするゴールに絶対に決めさせないのを前提に移動し、常に情報を確認し、少しずつ微修正を加えて自分の間合いを保ち続けるわけです。もちろんボールを持たない選手の位置によって、どこに攻め込んでくるのか予測も立てる。スペインのように細かくパスをつながれたら、体幹がブレてしまうことも出てくるでしょう。でもナバスは丁寧に修正し、ナチュラルに対応している。理想です。

 ただ、そんなナバスもクラブワールドカップで、中央からフリーで打たれて、柴崎岳に2点決められています。どんなにいいGKでも完璧はないんだと思わされます。

 だからノイアーのポジショニングも、あの体のサイズがありながら文句なし。さすが世界一と言われるだけあると思わされます。

——印象ではノイアーは試合勘が鈍っているのかなと感じましたが?

 W杯3大会目とあって、時間が経つごとに、イメージしているプレーに、しっかり体を慣らしてきているように見えます。メキシコ戦の失点シーン、あのときの対応も僕はすごいなと唸らされました。

——失点シーンでのノイアーが?

 はい、そうです。

——メキシコのカウンターが鮮やかすぎる、という視点でしか見ていませんでした……。

 最後、メキシコのイルビング・ロサノが切り返した瞬間、隙ができたのをノイアーは見逃さなかった。ポンってキッカーに対し、まっすぐ踏み込み、自分の間合いに持ち込んでいます。そこで、「あ、これ止めるかも!」という雰囲気を作っています。その間、コンマ何秒ですが。

 ただ、ロサノが蹴り込んだのはPKの11メートルよりも近い距離。しかも、正確にサイドを貫いたいいシュートでした。それにノイアーとしてはファーに来る可能性もあったので一瞬タイミングが遅れたけど、(反応して)しっかり飛んでいます。紙一重でした。あの最後まで諦めず間合いに持ち込んだ駆け引きの妙は、GKからすると、たまらなかったです(笑)。

——ビッグセーブなどに目が行きがちですが、ノイアーはそんな繊細に対応していたんですね。

 はい。一方で、メキシコのオチョアがドイツ代表のクロースの直接FKを左に飛んでセーブし、間一髪、バーに当てて止めたシーンがありました。

——彼も塩田選手と同じ185センチ。オチョアの真骨頂と言える、反応とジャンプ力が集約されたスーパーセーブでした。

 あのFKの場面、攻撃側のドイツの対応に、おや? と感じたことがありました。メキシコは壁を4枚作って守っていました。その壁の横から、キッカーのクロースがオチョアには丸見えです。だからオチョアからすれば、蹴るタイミングもすべてお見通し。

 ドイツが最善を尽くしてキックを決める確率を高めるのであれば、二枚(二人)ほど、メキシコの4人の横に目隠しの壁を立てるべきでした。だからGKの僕からすると、なぜ? と思いました。クロースのキックは枠を捉えていました。目隠しがあれば結果は違っていたかもしれない。ノイアーの細やかさと勝負勘に驚かされた一方で、ドイツのチームとしては、意外と隙があるのかなと感じました。

——すごい! そこまで見ているんですね。

 そういうところばかり目が行ってしまうんです(笑)。ドイツがセットプレーの対策をそこまでしていないのは意外でした。高さとパワーのある選手が常に揃っているから、セットプレーは大枠での決め事で十分なのかもしれません。その意味では、日本のセットプレーは緻密だと思います。左サイドからのCKに本田を起用して、狙った大迫が決めている。詰めの部分を入念に打ち合わせているように感じました。

 日本が示した「守備でも感動させるぐらいのインテンシティ」。そして盟友・川島へ――。

セネガル戦、川島のパンチングの瞬間。すぐ目の前にマネが詰めていた。写真:新井賢一/(C)Kenichi ARAI

——ワールドカップ・ロシア大会、ロシアこれまでGKのミスが目立つような形になっていますが?(連載第2回6月28日掲載)

 もちろんミスはミスで、(川島)永嗣はいろいろ言われていましたが、スペインのデ・ヘア(マンチェスター・ユナイテッド)も、アルゼンチンのカバジェロ(チェルシー)もミスから失点しています。では、一体、誰だったら完璧なのか? そこは紙一重です。

 アルゼンチン対クロアチア戦(0-3)、53分にカバジェロがキックミスして、レビッチにボレーで蹴り込まれました。すると約30分後の80分、モドリッチにミドルを決められてしまう。ゴールの隅を突いた良いシュートでしたが、カバジェロの技量を持ってすれば普段であれば止めていたでしょう。さらに完全に崩されて3点目も与えてしまう。GKは試合中に心を揺すられることがすごく多いポジション。ミスを引きずってしまうと、カバジェロほどのレベルのGKでも持ち直すのが簡単ではないのだと思いました。

 現代GKは数多くの役割が求められ、ゴールに直結する一瞬の判断を常に求められます。それでゴールを守りながら、スペースも埋める。大会のグレードが上がるほど、より高いプレーレベルも求められます。

——W杯もここからさらに高いレベルのGKが、チームを勝たせていくと。

 永嗣だってそういう存在になり得る。そこは気持ちの持ち方も関わってきます。みんな図太い一面がある一方、先ほど言ったように試合中に心が揺すられるポジションでもあり。そのあたりは周りも少し感じてあげてほしいですね。

ロシアW杯に見える傾向やトレンドについて語ってくれた塩田仁史。 協力:大宮アルディージャ

——負けていないのに戦犯扱いのようで……。

 まあ……僕が言う立場にはないのは承知しています。ただ一学年違いの同世代として一緒にやってきた立場で、少しだけ言わせていただきますと……。

 GKにとって、何が大事かといえばリバウドメンタリティ。セネガル戦で永嗣のパンチングが押し込まれました。でもGKは起こったあとに何をするかが肝心です。その失点のあと、アイツは決定機を含めシュートを止めています。永嗣自身が「試合を難しくしてしまった」と言っていましたが、一方で、そのあとの彼のプレーがあったからこそ、チームは同点に追いつくこともできた、と言えます。

 それに、あの失点が前半の早い段階で良かった。それもアイツが「持っている」と言えるところ。ワールドカップ3大会連続でずっと牽引してきたわけだし、同業者の立場としては、自信を持ってやり切ってほしいと思います。

 何よりあの失点後は、かなり吹っ切れてプレーできている気がします。

—-GKの失点につながるミスはやはり目立ってしまいますが、背景に目を向けると、要因は多々あって、失点もただ一人の原因ではないことが見えてきます。

 批判は仕方ないけど、過剰すぎる気はします。今回の報道は、僕ら同業者もヘコむぐらいですし、守ってあげたくなりますよ。永嗣はしっかりリカバリしていたと思います。日本は守備でも感動させられるぐらいの集中やインテンシティを見せてきました。やっぱり、最後勝つにはそこが重要なんだと伝えてくれていますし、僕も頑張らなければと痛感させられます。だから、まだまだここから。吹っ切れた永嗣に僕は期待したいです(注:ポーランド戦前に話を聞いた)。

新ルールとVAR導入。「マリーシアは形を変える」

――2016年のルール改正で、特にGKに課されていた厳しいルールが緩和されました。例えば「決定機阻止」のファウルは全てレッドカードだったのが、ペナルティエリア内の「決定機」でもボールに向かっているファウルは「イエロー+PK」となりました。加えてVARが導入された。ワールドカップ・ロシア大会は、そういったなかで迎える最初のW杯になりました。GKは積極的にプレーできる環境になっていると感じます?(連載第3回6月30日掲載)

 積極的に足下へチャレンジしやすくなったとは思いますが、結局はPKを与えてしまうわけですから。そこまで意識の変化はない気がします。

 何より今回のロシアW杯でもそうですが、最近の傾向として、昔はブレイクアウェイ(シュートを打たれる前に、GKが飛び込むプレー)の機会が多かったけど、もうGKの足下へのチャレンジ自体が減っていると思います。

 ドイツ代表のノイアー(バイエルン)もボールホルダーに詰めたあと、手をぐっと広げて、相手の狙うスペース全体を覆い込むようにしています。そのように、相手の足下ではなく、近くまでしっかり間合いを詰めたあとブロックに行こう、というプレーが一般化してきている気がします。

コロンビア戦で決勝のゴールを決めた大迫(15番)と歓喜する日本代表の選手たち。写真:新井賢一一/(C)Kenichi ARAI

――なるほど。これまでのルールが、GKに厳しすぎた、ということですね。

 そうですね。加えてGKが飛び出すシーン。あの大概は、GKが「行ける」と思って飛び出すんですが、ボールホルダーに誘い出されていることが多い。ちょっとボールを餌のように泳がされて、GKが「行ける」と食いついた瞬間、相手に先にすっとボールに触れられてしまう。そういう駆け引きは多いです。

 映像で見ると、GKが積極的に思い切っていきました、相手を倒してしまいました、と感じますが、意外と誘い出されていることが多い。行くか、行かないか、その見極めは難しいですね。

――一方でVARが導入されてPKが増えています。すでに前回大会の14回を超えたそうです。

 そこはメリット、デメリットがあり、お互い様です。今大会、それだけが理由ではないでしょうけれど、強豪国が苦戦しているのは、VARの導入も関係していると思います。サッカー大国に優位に働きがちだったレフェリングが、正当に裁かれるから。コスタリカ戦でのネイマール(パリSG)のPK取り消しなんて、そのままだったらブラジルが余裕を持って戦えていたと思います。アディショナルタイムに2点入るまで試合が決まらなかったのは、VARがあったから。

――ではVAR導入によって、マリーシアは根絶されるのか。それとも形を変えていくのか。

 形を変えていくと思います。わざとではない場合ももちろんありますが……DFが出してきた足に自分からかかるパターンは増えそうです。ポルトガル代表のクリスチアーノ・ロナウド(レアル・マドリー)のイラン戦でのVARによるPK獲得は、その一例に挙げられます。確かに他に逃げ場がなくファウルだと思いますが、足にかかりにいっている感じはします。

 それにボールホルダーがドリブルで仕掛けて、後方から追いかけられているとき。ドリブラーが急停止してトリップ(屈む)すると、後ろから乗っかられてファウルになる。それでPKを獲得しようとするのはありがち。

 そんなテクニカルな面でVARを逆に生かすプレーも増えていく気がします。一方で、あからさまなのは減っていくでしょうね。

ルール改正やVAR導入は、ロシアW杯でどのように影響しているのか。大宮のGK塩田が興味深い話をしてくれた。写真:協力 大宮アルディージャ

――プレースタイルも、ルールも細かく変化するなか、GKは一つひとつに対応するだけでも大変ですね。

 ルールが緩和されたと言っても、やはりGKに不利なルールが多い。その2016年の改正で、PKで先に動いたGKにはイエローカードが出されるようになりました。一方で、キッカーに対しての縛りはそこまでない。軸足を置いてから動作を止めなければ、助走では何をやってもいい。GKからしたら、厳しいルールがまだ多い気はします。

――決定機阻止時の「PK+GK退場+選手交代」の三重罰が緩和されたとはいえまだ厳しいと。

 はい。それにボールも、できるだけゲームが面白くなるように開発されています。だからブレやすくなり、無回転のスーパーシュートも決まる。

 W杯は分からないですけど、ボールが走るように芝を濡らすチームは増えています。僕もスペインのデポルティボなどで試合したとき、びしょびしょでしたから。GKからすると、キャッチングするとき、スリップしやすい。単純にグリップが滑るので、気になります。

 それにW杯のひのき舞台だから、さすがにボールは新品を使っているはずです。新品はちょっと濡れたりするだけで滑りやすくなります。そういった面でも、GK泣かせなところはあります。

 スペイン代表の名手デ・ヘア(マンチェスター・ユナイテッド)がクリスチアーノ・ロナウドのほぼ体の正面に飛んできたシュートを、弾き切れず失点しました。あの強烈なシュートが来て、しかも微妙にデ・ヘアの目の前でブレている。それが10センチ、15センチ動いただけで致命傷になる。あれだけの名手でもそんなことが起こるのだから、いろいろ条件が揃ってしまうと防ぐのは難しいと言えます。

――W杯など規模の大きな大会では、ゴールを増やしたい傾向がある。それはGK泣かせですね。

 だから今大会を見ていて、オーガナイズされた守備、インテンシティの高い守備の重要性を、改めて強く感じますね。そこそこある程度の対応ではなく、しっかり間合いを詰めて、当たりにいく、体を投げ出す。そういったチームが結果も残しています。アルゼンチンに引き分けたアイスランドもそうでした。1勝も挙げられませんでしたが、コスタリカも素晴らしい集中力を見せていました。

 その意味では、日本もゴール前ではフリーで打たせていない。インテンシティが高い。それこそ、守備で感動させるぐらいの集中力って大切だと、改めて思いました。

 大宮もまさしくその部分。全員が守備から意識を共有して、さらに這い上がっていきます。

PROFILE 塩田仁史 しおた・ひとし/1981年5月28日生まれ、茨城県日立市出身。日高SS-滑川中—水戸短大付属高ー流通経済大ーFC東京ー大宮アルディージャ。今季2試合0得点、J1通算91試合0得点、J2通算25試合0得点。現役15年目を迎え、J1復帰を目指すチームを支える頭脳派かつ闘魂のゴールキーパー。

取材・文:塚越始
text by Hajime TSUKAKOSHI

Posted by 塚越始

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