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「生徒たちが本当に頑張った結果」前橋育英・山田耕介監督が貫く個と向き合う姿勢

就任36年目の山田監督のもと、前橋育英がついに全国選手権初制覇! 写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

 一段と勝負にこだわった1年だったが――。

 前橋育英の山田耕介監督は、初の全国選手権制覇を決めた瞬間、意外な感慨にふけったという。

「いや、ボーっとしていましたよ。また負けるのかな、また準優勝なのかって、それがずっと脳裏から離れずにいたものですから(苦笑)」

 そして前橋育英をたたえるスタンドの光景を目の当たりにしたとき、優勝したのだと実感が沸いた。ヒーローインタビューでは「生徒たちが一生懸命にやってくれました」と言って、涙を浮かべた。

 就任36年目、2017年度に肩書きが「校長」になった。それでもグラウンドでの教え子に接するスタンスは変わらない。「いいところを、どんどん伸ばせばいい」と、個と接し、個を伸ばす。今回のチームからも、松本陸がガンバ大阪、渡邊泰基がアルビレックス新潟に進むことが決まっているが、山口素弘、松田直樹、青山直晃、細貝萌、田中亜土夢、青木拓也、六平光成、小島秀仁……数多くのJリーガーを輩出してきた。

 そのうえで、勝負に一段と厳しくこだわった1年でもあった。ちょうど1年前の決勝、青森山田に0-5で敗れた――そこから這い上がったことを証明するためには「優勝」するしかなかった。

「去年の0-5が大きかった。切り替えるには難しく、1週間ぐらいは立ち直れなかった。それぐらい強烈だった。練習試合でさえ、あそこまで負けることはない。ただ、そこから強くなっていった。『0-5、絶対に忘れるなよ』と。ここからだぞ。限界なんてないんだから上を目指せと、言ってきた」

 浮ついた雰囲気になったとき、モチベーションビデオにその負け試合のシーンを入れて、「ほら忘れていないか?」と選手たちに問いかけた。

「ベスト4入りが4回。5回目でようやくクリア。それぐらいやらなきゃいけないのか、きつかったな……。ただ、そういう準優勝どまりの星のもとに生まれてきたのかなとも思っていた」

 58歳の指揮官はすっかり自虐に慣れていた。そして続けた。

「基本的に、生徒たちが本当に頑張った結果だと思います。大学に行っても、プロに行っても頑張ってほしい」

 負ければ監督の責任。勝てば、教え子をたたえる。その姿勢もまた変わらない。スタンドにいた選手も、地元の群馬や前橋で声援を送った生徒や街の人たちも、父母も、OBも……前橋育英の「タイガー軍団」が力をひとつに、ついに日本一の頂点に辿り着いた。

文:サカノワ編集グループ

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