【ファインダー越しの世界】武藤嘉紀、浅野拓磨、日本人FWの苦悩の先にある「シンの強さ」
屈強な相手選手とバトルを展開する武藤(中)。FWとしてパワーはもちろん相手を出し抜く狡猾さも必要とされる。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA
写真にボールが入っていなくても迫力は伝えられる。
昨年10月に遡るが、27日のマインツ対フランクフルト戦では武藤嘉紀が、そして29日のシュトゥットガルト対フライブルク戦では浅野拓磨の名前が、試合前に渡されたスターティングリストのなかにあった。
撮影対象がFWとなれば、カメラマンとして狙うのはゴールシーンとそれに続く歓喜のときだ。FWと言っても、センタフォワードの武藤と、ウイングでプレーする浅野では撮影の難易度は異なる。
ドリブルを武器とする浅野はボールを持てばまず仕掛けようと試みるので、必然的にシャッターチャンスが多く巡ってくる。対してマインツの最前線に立ち、ラストパスに「点」で合わせる武藤は、動きを予想するのが難しい。ボールに触れる時間も短いため撮影はより困難になる。
ファインダー内に武藤を捉え、追い続けても、なかなかボールを持った場面を切り取ることができなかった。敵ゴール付近でのポジション争いは激しく、簡単にはボールに触らせてくれない。
しかし、前線での激しい攻防を目の当たりにして、改めて気付かされた。
なにも切り取った写真にボールが入っていなくても、サッカーの迫力は伝えられるのだと。
敵のマークを跳ね返し、チャンスを伺う武藤のプレーには、たとえボールがなくてもサッカーというスポーツが十分に表現されていた。
一見、その動きは地味だが――。
マインツ戦から2日後、右ウイングとしてピッチに立った浅野は、得意のドリブルを武器にチャンスメーカーとして活躍した。果敢に攻め上がる姿を写真に収められた。
しかし、シャッターを切った彼のプレーでもっとも印象に残ったのは、ドリブルをする姿ではく、むしろボールのない場面だった。
試合中、ファインダーに映る背番号11番は、フライブルクの守備網をかわし、フリーになっては自分にボールを預けてくれと、何度も味方にアピールしていた。
武藤、浅野ともにボールをもらう前の動きに対して、非常に神経を使っている様子だった。プレッシャーをかけてくる相手との駆け引きを繰り返し、自分がプレーしやすく、仲間がパスを出しやすい状況をなんとかして作り出そうとしていた。
戦術のなかで自らの存在意義を示す。
ボールのないところでの動きは一見すると地味に映る。だが、そうした明確な意志を持った動作は、現在サッカーのFWにとって重要であり必須のプレーだ。
そう、ボールがあるシーンに拘らなくても、選手が必死にプレーしていることを伝える写真は撮影できる。
それでも、欲を言えばFWとしての大胆さに、物足りなさを感じたことは否定できない。ふたりには、本来FWに求められるゴールへの意識をもっと強く持つべきだとも感じた。
日本人選手のゴールや喜ぶシーンを撮影したいと思う願望は、消えることはない。それは彼らFWにはそうした場面がよく似合うからだ。
文・徳原隆元
Text by Takamoto TOKUHARA