×

【浦和 クラブW杯総括&展望】リーベル、モンテレイが「指針」に。東アジアで突き抜ける存在へ そのビジョンが、Jリーグ制覇につながる

クラブW杯、インテル戦でゴールを決めた浦和の渡邊凌磨(左)。長沼洋一が祝福する。(Photo by Justin Setterfield - FIFA/FIFA via Getty Images)

東アジアで突き抜ける。そのためにJリーグでトップ3付近で戦っていく。そういった目標を持つことでこそ、Jリーグ制覇への道も切り開かれるのでないか。

 4年ごとに32クラブが集う新方式になったクラブ・ワールドカップ(クラブW杯)は、チェルシーFCの優勝で幕を閉じた。日本から唯一出場した浦和レッズは、グループステージ3戦全敗に終わった。

 浦和でありJリーグの立ち位置を知るうえで、各大陸のチャンピオンクラスと真剣勝負できる。その機会を得られたのは有意義で、3試合とも見応えがあった。

 欧州のメガクラブを頂点にヒエラルキーがあり、そこに各大陸の代表が挑むという構図であった。浦和を含めJリーグ全体がヨーロッパへの選手供給リーグになっている現状を踏まえて、この32クラブに入ると、浦和でありJリーグが、一体どこを目指しているのか(クラブの収支、売上高にこだわっているような)? そのベクトルが曖昧であり、そのあたりもこの完敗の要因の一つには感じた。

 浦和はGSの3試合、松尾佑介と金子拓郎が、そのアタックから何度か見せ場を作り出した。そして松尾のリーベル戦でのPK弾、金子の突破から渡邊凌磨のインテル・ミラノ戦でのゴール。それら痕跡を残すことはできた。

 しかし、一瞬を突いたリーベル・プレートの先制点、プレスが弱まったところをチャンスと見たCFモンテレイの強烈ミドル弾、ラウタロ・マルティネスのインテル・ミラノに懸ける想いから生まれた同点弾――。対戦した3チームの底力(この試合は勝たなければいけないという想い)とインパクトは、浦和のそれを大きく越えてきた。Jリーグにはない次元のプレーの連続だった。

 浦和はJリーグでの課題だった点、危険なポケット(ハーフスペース)を突かれてもボール奪取に行けない、高い位置からプレスに行くべきか躊躇してしまう、連動したハイプレスがかからず、そこをかわされ一気にピンチになる。そういった詰め切れていないディテールが解消・修正されないままピッチに表われ、Jリーグであれば相手のミスに救われるシーンで、ことごとく攻略されてしまった。

 また、マチェイ・スコルジャ監督の采配も基本的には一辺倒だった。インテル・ミラノ戦では「よりカウンターに行きたかった」と語ったが、チアゴ・サンタナを最前線に投入すれば、相手の裏を突くアクションは減る。結果、相手の最終ラインの押し上げを許し、終盤の劣勢を招いた。

 モンテレイ戦の終盤、なんとか1点を奪おうと渡邊凌磨をボランチに据えたが、そうすると中央のスペースの守備強度が大幅に下がるリスクも伴う。結果、アディショナルタイムに4失点目を喫した。

 そのあたりの細部を追求できるのか。あるいは、そこを補える補強ができるか。シーズン終盤、タイトルを獲得するためには、そのあたりに懸かってくる。

 また今回、リーベル、モンテレイ、この2クラブと対戦できたことも、浦和にとって大きな収穫だったと言えるかもしれない(もちろん現在世界のトップ・オブ・トップのインテルと戦えたことも)。

 決して世界のトップではないが、それぞれの大陸で際立った存在になっている。Jリーグや東アジアで、この両クラブのような存在――そのどちらかのような方向性に向かうことで、浦和が“個性的なクラブ”になっていける。そんなヒントがあったのではないか。

 リーベルはシーズン平均8万4567人と世界最多の観客動員を記録している。

 アルゼンチンリーグは最大6人の外国籍選手枠が設けられているが、二重国籍が広く活用されている。基本的には育てて、選手を世界に輩出していく流れができている。レアル・マドリードへの移籍が決まっていた17歳のフランコ・マスタントゥオーノは、明らかに未完ではあったが、そのポテンシャルの高さを浦和戦でも見せた(先制点の起点となった)。この夏に得た移籍金で、また次なるマスタントゥオーノを発掘する(もしかすると、NEXTリオネル・メッシが生まれることも)という循環ができている。

 もちろん、そのサイクルはあらゆるクラブが憧れる理想形であり、継続してタレントを輩出している日本のクラブはサンフレッチェ広島や川崎フロンターレぐらいだ。ただ、一線級の選手供給を目指すことに振り切り、欧州各国リーグのクラブと連携を深めていくのも一手だろう。

 一方、モンテレイは、逆に外国籍選手を多く受け入れて、名門のCFパチューカ、首都メキシコシティをホームとするクラブ・アメリカと一線を画し、結果を残してきた。そうした傾向と実績があったからこそ、セルヒオ・ラモスの獲得につなげた。

 このクラブW杯をターゲットに、モンテレイはセルヒオ・ラモスの獲得に成功。チームはベスト16に進み、30億円を獲得してみせた。

 現地報道によると、ラモスの年俸は約6億円(400万ドル)プラス出来高と言われる。まさにその期待と価値に、結果で応えたと言える。

 こちらもスペイン語圏であり、イタリア、スペイン、ポルトガルなどと歴史的につながりが深い。言語や文化の背景など、リーベル同様、日本と異なる点は多い。

 それでも、例えば近い文化のビッグタレントを迎え入れていく。まず東アジアの最強クラブを目指す、というのも一策ではないか。

 J1リーグ優勝を目標に現在の強化体制が掲げた“浦和と縁のある、つながりのある選手”を優先した補強。できるだけ長いスパンでプレーしてほしいという理屈は分かるのだが、もう少しスケールは大きくしたい。

 浦和は韓国籍の選手を獲得してこなかった。来年からは秋春制にも以降する。いろいろな意味を含めて、新たな時代突入への覚悟を示す補強。例えば、トッテナム・ホットスパーFCとは2026年6月までの契約となっている、韓国代表のスーパーストライカーであるソン・フンミンなど、どうだろうか? 

 加えて、浦和だけが強くなる、あるいはJクラブのどこか1チームだけが突出していだけでの限界も痛感する大会となった。

 来年W杯が開催されるアメリカ、2034年のW杯開催が決まっているサウジアラビア(アル・ヒラルがマンチェスター・シティを下してベスト8進出)……国を挙げてリーグ強化に乗り出し、そこで強いクラブが作られ、一過性かもしれないとはいえヒエラルキーの上位に食い込んでいる。

 むしろ、Jリーグであり、東アジアのサッカー界全体で、盛り上がっていく必要を感じた。タレント不足が課題となっているものの、中国のサッカー人気が回復しているのは(平均観客動員数は大連智行が5万5000人、北京国安が4万6000人など)、Jリーグにとってむしろ朗報と言えるだろう。

 Jリーグを一度しか制していない浦和が、その先の話をするな、という声もあるだろう。ただ浦和はAFCアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)を三度制していて、今回、こうして日本から唯一クラブW杯の出場権を掴み取った。偶然ではない。それはそれで、そのように歴史を作ってきたクラブとして、胸を張っていい。

 東アジアで突き抜ける。そのためにJリーグで常にトップ3付近で戦っていく。そういった目標を持つことでこそ、Jリーグ制覇への道も切り開かれるのでないか。日本最多を誇るサポーターをもっと巻き込んで魅了していく。クラブには大胆な発想と戦略で立ち向かっていってもらいたい。

Posted by 塚越始