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ハリル氏解任問題、欠如するサッカー本質の評価。「ウクライナに負けたから、と言われたほうがまだ理解できた」

日本記者クラブで会見を行なった前日本代表監督のハリルホジッチ氏。(C)SAKANOWA

プロフェッショナル同士、あくまで「ピッチ=サッカー面」がテーマの中心にあるべきだった。

 ハリルホジッチ日本代表前監督の記者会見は、要約すると、来日後にともに仕事をした選手、スタッフ、そして応援してくれたサポーターには感謝している。ただ日本サッカー協会の田嶋幸三会長と当時の西野朗技術委員長(現・日本代表監督)の対応には納得がいかず残念でならない。結局、解任された本当の理由が分からないままだ、となる。何より彼がどれだけ日本を想っていたかが伝わってくる90分間だった。一方、この解任問題がどんどん「感情論」「憶測」に流されていることには、やや違和感を覚える。

「(ワールドカップ行きが決定したオーストラリア戦後)二人の選手が不満を持っていたようだ」とハリル氏が言ったことで、犯人探しが始まり、あたかもそれが誰なのかが特定され、今回の「コミュニケーション不足」を訴えた当事者として釣るし上げられている。

 ただ、そこは問題の本質とはかけ離れているのではないだろうか。

 試合に出られなかった選手が不満を抱くのは、あらゆるカテゴリー(スポーツ全般)で必然なことだ。そのマネジメントも監督やスタッフの仕事。そこは当事者たちも十分理解している。個の最も尖った選手が集うのが日本代表なのだから、ハリル氏が「不満を持っている選手がいるようだと、西野さんから聞いた」と言ったことに他意はなく、ある意味、チームとして正常だったのではないだろうか。

 もちろん、「選手とのコミュニケーション不足」を解任の理由に挙げた田嶋会長の発言が混乱をもたらしているのは事実だ。それゆえ、そうした不満分子が今回の解任劇を起こしたと、ハリル氏も疑ってしまっている。

 むしろ、今回のハリル氏の記者会見で個人的に最も驚かされたのは、4月7日にハリル氏が田嶋会長とパリで会談した際、解任の理由について「コミュニケーション不足」としか伝えられなかったという事実だった(その会談は「わずか5分という短いものだった」とハリル氏は言っていたが、言葉の不足や通訳を挟んだため、「私には5分ぐらいに短く感じるものだった」と言いたかったようだ)。

 本来、最も重視すべき「ピッチ上=サッカー面」に関する評価の話が出ていなかったことになる。建前の解任理由があくまで「コミュニケーション不足」で、田嶋会長からハリル氏に対しサッカー面に関して具体的かつシビアな説明があったかと思っていたが、そうではなかった。「(E-1東アジア選手権で)韓国に敗れたあと、解任を考えたことがあったとは言われた」とハリル氏は明かしたが、その程度だったようだ。

 昨年8月のアジア予選突破後、ワールドカップに向けたテストモードに突入した。そこから負傷などにより選手がなかなか揃わなかったのは事実だが、「内容」よりも「結果」を重視したワールドカップ予選を経て、11月の欧州遠征、国内組中心だったとはいえE-1東アジア選手権、そして今年3月のベルギー遠征……。ハリル氏はあくまで「本番に向けた準備期間。順調に来ていた」と力説していたが、果たして、チームは魅力的になっていったか。ハリル氏と周囲で、その捉え方の乖離があったのは紛れもない事実。本来、プロフェッショナル同士なのだから、あくまで「ピッチ=サッカー面」がテーマの中心にあり、評価も下されるべきだった。もちろん、その都度、西野技術委員長はハリル氏と徹底的に話し合うべきだった。今回の解任騒動は、その評価や議論が抜け落ちたままだ。

 ハリル氏の無念さは伝わってきた。「あとは私の最も得意とする、『最後の詰め』の作業に向かうだけだった」と訴えた。だから解任の理由について、「むしろ、(3月のベルギー遠征での)ウクライナに負けたからだ、とリザルトを突きつけられたほうがまだ理解できた」と嘆いたほどだ。

 現在、怒りや悔しさの感情論が増幅し、日本協会が看過している間に「二人の選手」に矛先が向かう”最悪”の事態を陥っている。いやいや、私たちは十分サポートしていましたから、という協会サイドの反論はもういい。プロフェッショナルな監督として、ハリル氏は今、誰よりも日本のために力になりたいと考えている。敬意を表するのであれば、彼が日本代表のピッチに注いだ情熱を、何かしらの形で生かしたい。「日本代表」を短期間で一枚岩にするには、おそらく難しいが、例えば……日本代表監督に就任した西野氏とハリル氏が一度徹底的に「サッカー」について語り合う場を設けることなどできないか。この日の会見を聞く限り、ハリル氏は拒否しないだろう。

取材・文:塚越始
text by Hajime TSUKAKOSHI

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