中村俊輔のようなFKの軌道。日本代表デビュー天野純「俊さん、改めてすごいなって」
日本代表デビューを果たした天野純。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA
横浜F・マリノスの下部組織出身のレフティが、目標と憧れに近づく一歩目を踏み出す。
[キリンチャレンジカップ] 日本 3-0 コスタリカ/2018年9月11日/パナソニックスタジアム吹田
横浜F・マリノスのMF天野純がコスタリカ戦で日本代表デビューを果たした。
75分に中島翔哉と交代し、2列目でプレー。投入から3分後、さっそくゴール前でフリーキックの場面が訪れた。ただ、「(キッカーは)決まっていませんでした。ベンチも『天野蹴れ』みたいな雰囲気だったんですけれど、僕が(堂安)律の立場だったら、自分でもらったFKであれば、蹴りたいと思ったはずです。そこは律の気持ちを尊重しました」と、20歳の堂安に譲る形となった。
その後はコーナーキックを含めてセットプレーをすべて担当した。コーナーキックは「軸足を置くところが緩く芝がめくれてしまい、上に飛んでしまいました。言い訳になってしまいますが……」と蹴り損ねたが、少しずつ雰囲気に慣れ、プレーもリズムに乗り出す。
迎えた85分、やや後方で得た直接フリーキックの場面。そのキックが放たれた瞬間、スタンド全体がややざわついた。
「『あそこに入ってくれ』と(三浦)弦太に言っていたなか、ちょうどそこに落ちたので、決めてほしかったですね(笑)。まあ仕方ないです」
ボールはゴール前でスッと落ちて、走り込んだ三浦のもとへ。しかし三浦は合わせきれず、ゴールにはならなかった……。
そのざわつきの一因は、パナスタをホームにするガンバ大阪の三浦が決定機に絡んだからでもあった。さらに、その左足から描かれた放物線の美しさも、もう一つの理由だったに違いない。
天野が横浜F・マリノスの下部組織からの大の憧れであり尊敬してきた、中村俊輔(現・ジュビロ磐田)を髣髴させるようなボールの軌道だった。そんな驚きが、あの一瞬に込められているように感じた。
「追加招集ではありましたが、試合に出るためのアピールはしてきました。その結果、今日こうして交代でチャンスをもらえましたし、このキャンプでやってきたことが良かったのかなと思いました。何より、今日は本当に、全員が良かったと思います」
試合前の選手入場時に「これまでにないプレッシャー」を感じという。ただ実際に自分が試合のピッチに立つときには「緊張はあまりなかった」。実際、プレーに関して、一切物怖じは感じられなかった。
そして、あの放物線はまるで中村俊輔のようだったという話をした。すでにクラブにはいない選手の話をしていいものかと思ったが……。
すると天野は頷いて言った。
「俊さんはこうした中で、代表の10番をずっと背負ってきた選手。やはり代表のピッチに立ってみることで、見えないプレッシャーが、きっと相当にあったんだなと気付かされました。だからこそ、改めてすごい人だと思わされました」
近年、日本代表には左足のテクニカル系のセットプレーのキッカーが不在だった。そのなかで代表デビューを遂げ、中島翔哉の右足、そして天野の左足と、日本の新たな武器になり得る可能性を示せたのではないだろうか。
2022年のワールドカップの舞台に立つという目標に向けて、そして中村俊輔という憧れへの背中に少しでも近づくために。天野が9月11日、大阪で大切な一歩を踏み出した。
取材・文:塚越始
text by Hajime TSUKAKOSHI