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【浦和×湘南】令和の大誤審でJFA審判部、原因は副審の「思い込み」

浦和対湘南戦。山本雄大主審に、湘南の曺貴裁監督や大野和成が抗議をしたが…。写真:上岸卓史/(C)Takashi UEGISHI

ゴールラインテクノロジーはVARと同じぐらい高額。

[J1 12節] 浦和 2-3 湘南/2019年5月17日/埼玉スタジアム2〇〇2

 浦和レッズ対湘南ベルマーレ戦で杉岡大輝のゴールを審判団が見逃すという前代未聞の「令和の大誤審」はなぜ起きて、どうすれば今後防げたのか。その議論が「DAZN」の人気コンテンツ「Jリーグジャッジリプレイ」で行われ、日本サッカー協会(JFA)の上川徹トップレフェリーグループシニアマネジャーが実際に試合を裁いた主審や副審の話をまじえて解説した。

 31分、ペナルティエリア外から放った杉岡のシュートが右ポストに当たって、逆のサイドネットを揺らした。しかしそのボールがネットから跳ね返ってきた浦和のGK西川周作が項垂れてセンターサークル方向へボールを投げる。しかし山本雄大主審は「プレーオン」と指示し、そのまま試合が続行される。浦和はカウンターでボールを持ち込み、最後、シュートを放とうとしたアンドリュー・ナバウトがGK秋元陽太と交錯して倒れたところで、試合は一時中断。そこで湘南から7分間にわたる抗議を受けながら、結局、判定が覆されることなく「ノーゴール」のまま試合は続行された。

 一体何が起きていたのか――。上川氏は次のように説明した。

「ボールがラインを越えたのか。一番判断をしやすいのは副審でした。主審はシュートがポストを叩いたところまでは確認できましたが、複数の選手がブラインドになり、最後(ゴールネットを揺らすところ)の行方を追い切れませんでした。

 副審はそれを察して主審に、『ノーゴール』で『プレーを続けさせて』と、コミュニケーションシステム(インカムを活用した無線システム)で伝えました。副審はボールがポストを叩いたあと、逆サイドのポストに跳ね返り、ゴールキーパー(西川)のもとに飛んできたと。最後のボールの軌道を追えなかった主審は副審からの情報を聞いて、選手たちに『続けましょう』とメッセージを送りました」

 上川氏は実際、担当していた副審からも状況説明を受けたという。

「通常であれば、ボールは右のポストに当たったあと、そのままネットを揺らしてとどまるか、奥に行きます。ゴールキーパーのところに跳ね返ってきたことで、副審は『ポストにもう一度当たった』と、憶測と言いますか、思い込みで判断してしまった。ネットを揺らしたことを確認できず、経験などから憶測で助言してしまいました。それにより『明らかにノーゴールだ』とメッセージを伝えてしまいました」

 副審の「思い込み」が一番の原因であったという。加えて上川氏は、山本主審のマネジメント、もう一人の副審と第4の審判の役割にも問題があったと指摘していた。

 中断している間、山本主審は湘南サイドから過去にないほどの猛抗議を受けた。それでも副審ら審判団4人が集まって協議することはなかった。なぜか?

 上川氏は次のように説明した。

「4人で集まって確認するのも一つの方法でしたが、一番近くの良い角度で見ているのが副審で、主審もいました。それだけ副審から自信を持った情報が入ってくると、お互いが正確な情報を持たないなか、4人で話し合っても、結局、副審の答えしか出てこないわけです。誰か確実な情報を持っていれば、集まるべきでした。ただ、第4の審判も逆サイドの副審も、それだけの確証を持っていませんでした」

 もちろん会場全体の雰囲気は察していたという。

「『入ったんだな』という考えはあったそうです。ただ副審から『入っていない』という強いメッセージがあり、印象だけで覆すことは危険なことです。副審が自分で見たと判断し、最終的に主審が判定を下したわけです。選手のリアクションだけで判定を下すことだけは、してはいけないことです」

 要するに、ゴールが決まったことを、審判団4人だけが気付かないという、あり得ない状況が起きていたという。

 一方、ボールのゴールネットの跳ね返りは、上川氏も「初めて見た」という”異例”だった点も説明があった。

 では、今後の対策について。番組内でJリーグの原博実副理事長はVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)導入について次のように語った。

「準備はしています。今季のルヴァンカップとJ1・J2入れ替え戦の14試合で導入し、そのうえで、来年からJ1全試合に備えて準備しています。ただ時間とお金がかかり、すぐ『はい』というわけにはいかないところはあります」

 そのうえで、議論に上がるゴールラインテクノロジーの導入について、「VARとそれほど変わらない金額がかかる」ことが分かったという。VARも1会場4億円ほどがかかるという。

「トップオブトップであるのだから、J1では必要という声はあります。では、J2、J3はいいのか。また、それだけの費用を、そこに投入するのがベストなのか。それによって他の例えば育成などの費用が削られたら、それでいいのか。そこは本当に議論が必要です」

 追加副審を置くことが一つの方法ではある。ただ、「今回の誤審は防げるが、ゴールラインを割ったかどうか微妙な判定まで確認できるか」という課題も残り、得策とは言えない。

 そのうえで上川氏は「ボールがネットに当たって跳ね返ってくる、ということも頭に入れておかなければいけない。それだけでも変わってくる」とし、今回の事例を念頭に置いておくだけでも、同様の誤審は今後防げる可能性は高まると語った。もちろん、ゴールラインを割ったかどうかについての課題はそれでは解決できないが。

 また、審判団もまた試合ごとに評価を受けながら、J1とJ2の担当の入れ替えなどを繰り返し、「競争の世界」でやっているという話も強調された。

 上川氏は審判団の現状と今後についても言及した。

「担当した審判は憔悴し、相当なダメージを受けています。一方、彼らもこれまでいろいろな良い判定を下してきています。彼らが自信を取り戻し、もう一回シーズンに加わり、いい判定を下すことが大切だと考えています。そのための復帰プログラムに取り組み、それがどれぐらいの期間になるのか分かりませんが、サポートをしていきます。試合ごとに審判アセッサーがいて、そこで評価を受けながら、競争の世界で彼らもやっていることは知っていただきたいです」

 そのうえで原副理事長は審判アセッサー制度について、「減点方式の非常に細かいシステム。元審判の方が担当しています。そこにクラブ関係者、元監督、元選手などが加わっていくことも議論されていいかもしれない」と提案していた。

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