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【湘南】曺貴裁監督とかわした「落とし穴」論議

湘南ベルマーレの曺貴裁監督。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

「子供でも、大人でも、代表でも、1試合のなかで必ず潜んでいる」

[ルヴァンカップ 準決勝①] 柏 – 湘南/2018年10月10日/三協フロンテア柏スタジアム

「サッカーって、本当に分からない」

 湘南ベルマーレの曺貴裁監督が以前に定例となっている試合前の取材の際、「落とし穴」という言葉を使って話をしてくれたことがあった。

 耐え続けて数少ないチャンスをものにして勝てることもあれば、立ち上がりから主導権を握りながら逆に失点を食らって負けることもある。果たして、どちらがいいのか――指揮官もいまだに答えを見出せないという。ただ、だからこそサッカーは面白い、という話をしていたときだった。

「立ち上がりに流れが良くて点も取れて、行ける、と思いきや、逆転されたり。逆にピンチも多かったけれど凌いで、後半の決して多くはないチャンスを決めていれば勝点3につなげられたかもしれないという試合もあった。だから、どちらがいいのか分からない。最初に押し込まれていたほうが集中力が増したり、最初にボールを持てて良い感じで入れたときに、実は落とし穴があったりする」

 指揮官は45分ハーフの90分制だからこそ「落とし穴」が潜んでいると感じるという。

「サッカーはどう進めたら一番良いものなのかは考える。とはいえプレーするのは選手たちで、こちらがコントロールするのなんて難しい。ただゲームの入り方はある。その30分の間にワンプレーの落とし穴がだいたいあります。それこそ、アイスホッケーやバスケットボールのような4クォーター制だったら起きない。90分を、15分、25分、30分などで切ったら、そういった現象はあまり起きないのではないかなと思います。そこにサッカーの面白さはある」

 落とし穴にもいろいろな種類がありそうだ。自分たちのミスから作ってしまうもの。相手が仕掛けて待っているものもあるだろう。まったく関係のない(天候や判定など)ところで、突発的に発生することもある。サッカーでの事象を、人生に置き換えることもできそうだ。

 そして、誰かがハマることもあれば、みんなで協力して回避することも、それに気付かない(察知している選手もいれば、鈍感な選手もいそうだ)こともある。加えて、落とし穴にハマることを恐れてプレーが消極的になる選手が一人でもいては、チームとして機能しなくなる可能性もある。

「サッカーって、それがゼロにはならない。落とし穴は必ずある。子供の試合でも、大人の試合でも、代表の試合でも。だから、(落ちてしまう事故を)起こさないというよりも、起きたときに、大きな傷にしないこと。それに大きな落とし穴にしないこと」

「誰かがイージーミスをすれば、落とし穴になってしまう。それを全員でふさぐ。誰かが本当に決定的なシュートを外しても、もう一度、そこを決め切るだけのメンタリティを持つ。そういった物事の考え方こそ、大事だと思います」

 曺監督はそのように落とし穴に落ちかけたとき、または落ちてしまったとき、リカバリーこそが重要だと説く。

一人で這い上がれる場合もあれば、全員で引上げなければならない状況もある。

今日はルヴァンカップ準決勝の初戦。平塚時代の94年の天皇杯以来、「湘南」として初のタイトル獲得なるか!写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

 一人で這い上がれる場合もある。それこそ数人や場合によっては全員で引き上げなければいけないような状況もある。リスクの一つと言えるが。確かに「落とし穴」という表現がしっくり来る。そんな「落とし穴」もまた、サッカーの要素の一つだ、と。

 湘南の選手たちはそんな危険を回避したり、這い上がったりするリカバリーの力を身に付けてきたと、指揮官も実感している。曺監督から選手たちに何かを一方的に指示などを伝えるだけでなく、選手たちが自力で答えを見出そうとトライする機会を徐々に増やしていることに手応えを得る。

「負けても、勝っても、その試合の反省点は必ず選手たちにフィードバックしています。言わないときは、選手が分かっているだろうというとき。物事の事象については、やはり改善します。スローインやゴールキックも含めて。勝ち負けを決めるのは、そういうところにも原因があったりもします。とはいえ、私たちはJ1で初めてのシーズンではないし、勝ち急いでバタバタするようなチームであってはいけない」

 落とし穴を越えた先――曺監督はさらに「勇気」が大切になるのではないか、と言っていた。

「パスをしないといけないという既視感を持つのではなく、ドリブルで仕掛ける勇気を持つことも大事。思い切り、それがないと相手だって怖がらないから」

「チャンスを作れる前の部分もすごく良くなってきている。選手がアイデアを出してやっていくことも改善が見られます。あとは信じて思い切り打つとか。もともとJ2でも4点、5点を取って勝っていたわけではない。そういう意味では、ゴールを狙いながら、取れなくてもみんなで凌いでいくのが私たちのスタイル。そここそやはり大切だと思っています」

 湘南は今日10月10日19時からルヴァンカップ準決勝の第1戦、アウェーで柏レイソルと対戦する。ベルマーレ平塚時代の94年に天皇杯を制して以来、湘南ベルマーレとしては初となるタイトル獲得へ――落とし穴には気を付けながら、まず目の前の試合に全力を傾ける。良い形で、週末のホームでの一戦につなげたい。

取材・文:塚越始
text by Hajime TSUKAKOSHI

Posted by 塚越始

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