浦和レッズを覆う虚無感。ビジョンも戦術も喪失させたフロントの責任は重い
ACL決勝アル・ヒラル戦は総力を出し切ったうえで、力の差を見せつけられた。興梠慎三はしばらく虚空を仰いだ。写真:上岸卓史/(C)Takashi UEGISHI
残留は目標ではなくノルマ。アジアの頂点を逃し、改めて見えなくなったこのクラブの方向性。
[J1 33節] FC東京 – 浦和 /2019年11月30日14:00/味の素スタジアム
これまでにない虚無感のようなものが浦和レッズを覆っている。できれば前向きな未来について考えて、2020年に向けて広がっていく議論を展開したい。ただ「アジアの頂点」という浦和が一つにまとまってきた「目標」を失った今、ふと気付かされる。さて、ここからこのクラブは一体どこへ、何を目指していくのか? それが「ない」ということに。
もちろん、まずはJ1残留を確定することがミッションとなる。しかしそれは「ノルマ」で、「目標」とはまた少し違う。リーグ戦はここ13試合で、わずか1試合しか勝っていない。最近の公式戦では6試合で1ゴールしか決められずにいる。あのアジアチャンピオンズリーグ(ACL)決勝に向けた高揚感から抜け、チームはかなりの「重症」であることに改めて気付かされる。もちろん、リーグ3連戦などかなりのハードスケジュールを強いられた影響もある。問われるチームの真価。残り2試合、選手は意地を見せるしかない。
大槻毅監督はACL決勝を前に言った。
「より大きな力を貸してください。We are Redsの『We』にかかわるすべての人と一つになって、協力して一緒に戦いましょう」
その言葉には力があった。
そのメッセージに反応した人すべてが「We」の一人だったと言えるかもしれない。目指す地点――拠りどころは「アジアの頂点」であり、その先に広がる世界への景色を楽しみにしていた。
しかし、2週間の準備期間を経て臨んだ最高の舞台でのアル・ヒラル(サウジアラビア)との第2戦は、完膚なきまでに叩きのめされた。力負け。とにかく、いろんな現実を突きつけられる敗戦になった。
そして2日後には、土田尚史スポーツダイレクター(現場の強化責任者)、西野努テクニカルダイレクター(SDのサポート)の就任が発表された。
ただ、この発表に浦和逆襲への好感を得た人、心を躍らせた人はどれだけいただろう。むしろ、一部のサポーターを満足させるため、これまでと変わらずOBを活用する人事が繰り返されただけのようにも映ってしまう。クラブからのメッセージは、正直その人事からは伝わってこない。そして、それはもはやフロントであっても、誰も分からなくなっている。戦術的志向も、クラブの目指す先も。
ミハイロ・ペトロヴィッチ、堀孝史元監督の退任を受け、現在の中村修三ゼネラルマネジャーが就任して「スクラップ&ビルド」に取り組んだ。
解体はされた。しかし、そのあと積み上げようとするものは、砂上の楼閣だった。なんだか上手くいかないな、という繰り返し。そして、いったい、どんな城を建てようとしていたのかも分からくなっていった。
Jリーグと日本サッカーを取り巻く環境は、ここ数年(今年だけ)でも、大きなうねりを伴ってきた。横浜F・マリノスがシティグループと提携し、マンチェスター・シティなどと戦術も、情報も、選手も共有し合うようになった。ヴィッセル神戸はアンドレス・イニエスタをFCバルセロナから獲得し、バルサとのプレシーズンマッチも実現させた。FC東京の久保建英はレアル・マドリーに移籍して、世界の注目株となった。FCポルトの10番を中島翔哉がつけていることも意外と大きなトピックスだ。
欧州主要リーグのトップと日本のサッカーがつながってきた。しかし、日本の”ビッグクラブ”である浦和のフロントはそういった動きに反するかのように、浦和の実情をよく把握している、ということで、かつての強化責任者を再び同じ権限のある職に復帰させてきた。過去の成功例をもとに、もう一度成功を収めようとしてきたのだ。実際、浦和のフロントが、世界の動向やトレンドに敏感だとは感じられなかった。
監督、助っ人、さらに強化担当者、いずれの人選も「内輪」から広がらず、結果、停滞を余儀なくされている。ドメスティック路線で戦い切るというのも一案だが、そういった確固たるビジョンを持っているわけでもなさそうで、結局、ペトロヴィッチ元監督に選手補強を委ねた全権を委ねて以降、何も成功していない。
2002年から昨季までGKコーチを務めてきた土田氏のスポーツダイレクター就任の理由も、「誰よりも浦和を知っているから」だと分かる。あらゆる監督のもとで働いてきたから、チームを熟知している、と。ただ、まさに門番として、どの体制であっても、自分の理想はあっても、むしろそれを口に出すことを一番してこなかったポジションからの登用でもある。
もちろん、情熱的な土田SDが明確な理想を掲げ、クラブを再建させるはずだと期待している。ただ、土田氏独自の選手や監督とのネットワークを持っているのか、開拓していけるのか、浦和の持つパイプを過去の強化責任者以上に効果的に活用できるのか、交渉術は長けているのか……課題のほうが多い気がする。そして中村GM就任後、浦和はそのような成功する可能性の低いほうの賭けに次々と勇んでベットし、ことごとく失敗してきた。その効率の悪さに、まだ気付かずにさえいる。
ミシャスタイルから、オリヴェイラ氏を招へいして真逆のブラジル式にする。確かに、もしかしたら上手くいくかもしれないと期待を抱かせた。ところが訪れたのは現在のように、戦術と言えるものが何も「ない」という喪失の状況だ。
これまでの主力選手はとりあえず残し、力のある選手も獲得してきた。ところが本来持ち合わせている選手の力をチームに落とし込めない。悪循環。負のスパイラル。「スクラップ・アンド・ビルド」のスクラップ後の多大なリスク。ここまで悲惨な状況になるとは確かに想像していなかった。
もちろん一方で、浦和が今、過渡期を迎えているのは紛れもない事実である。
主力選手は30代中盤に差し掛かってきた。徐々にではあるが、楽しみな選手も出てきている。だからこそ、戦術的ベースは必須であったのではないか。結局、今シーズンの浦和は、プレスを前から行くのか、後ろで守るのか……その段階から進めず、1年が終わろうとしている。
問題を抱えているのは体制の根幹にあるのではないか。
運営する「浦和レッドダイヤモンズ株式会社」の社長は、三菱グループからの出向で、基本、2年間(長くて2期)で交代していく。ただ、そろそろ浦和は、ドイツなどのトップクラブで主流となる、営業面とサッカー面の責任者を別にし、「社長」と「トップチームの最高責任者(CEO)」を置くべきではないか。
オズワルド・オリヴェイラ前監督の解任と大槻毅監督の就任に伴う記者会見で、そのあたりを立花洋一社長に質問した。すると立花社長は「日本の社会ではそうもいかず、代表が判断し、サッカーに携わっていくべきもの。もちろん、なぜこうした監督交代劇が繰り返されているのかは考えなければいけないが」と答えていた。つまり、このままでいい、問題はそこではない、というスタンスだった。
立花社長は営業収入100億円を目指すと訴えていた。しかし、それは「夢」「理想」も発信していかなければいけないピッチとは別次元の話である。「社長」は営業に目を向け、サッカー面のCEOに監督任命権を持たせる。そういった棲み分けは必須ではないか。
大槻監督はいくつかのそういったビジョンにつながるキーワードを発してきた。それを上手く収斂して「ビジョン」に昇華させるのもまた、フロントの役目になるかもしれない。
これはあくまでも一案だ。
例えば、さいたま市(浦和)出身であり、メッセージの発信力があり今季限りでC大阪強化部長を退任すると見られる大熊清氏に”登板”を願うのも一案か。無論、それもクラブのビジョンがないと、活きない人材ではある。いずれにせよ、形式上ではない、外部からの視点や刺激も必要を迫られているように感じる。
そして、Jリーグ副理事長で浦和の元指揮官でもある原博実氏の”復帰”はどうか。原氏ほど欧州最高峰の指導者やGMとつながっている人材は日本にいない。原氏の好むスペイン流は、若干だけ名残があるミシャスタイルの発展形につながるとも言える。浦和の課題も把握しているだろう。いずれはGM、CEOなども任せていく流れを作っていけないか。決して上手くいっているように見えない、日本サッカー協会やJリーグとの関係性づくりであり、連携を強化することも、多くの方面と信頼関係を築いてきた彼らがいると期待もできる。さらに福田正博氏、ギド・ブッフバルト氏ら、外から浦和を見てきたOBの登用もあっていいと思う。これまでのフロントの下、人材が一向に育っていないのは、その重要なポストに魅力的な人材がいないからでもあるだろう。
営業収入では常にJリーグでトップを記録してきた。ただそれも”三木谷マネー”が投じられたとはいえ、神戸に1位の座を譲った。その国内ビッグクラブであった浦和が、何を目指し、どこへ向かおうとしているのか。それが「ない」今、選手の活用法も、補強ポイントも、どこから取っかかっていいのか。そのフックすら見当たらずにいる。前に進むための掴みどころがない、非常に危機的状況にある。そのため議論もなかなか膨らんでいかないのが現状だ。とにかく、すべて興梠慎三頼み。ACL決勝後、彼が誰よりも責任を感じて涙をこぼして、サポーターに深々と頭を下げて謝る姿は痛々しくもあった。あんなに悲しい涙はない。果たしてフロントに、彼の覚悟は伝わっていたのか。
まずはFC東京戦。勝てばJ1残留を確定できる。ピッチ上で、新シーズンにつなげる試金石となる「形」(=ゴールへの軌跡)を見せたい。
関連記事:【提言】浦和レッズは一つの産業。「社長」と「CEO」を分離すべき
[取材・文:塚越 始]