【浦和】自由と規律。小菊監督の言葉から浮かぶリカルド監督のテーマ
ACL準決勝の全北現代モータース戦後、選手たちと歓喜する浦和のリカルド・ロドリゲス監督。写真:上岸卓史/(C)Takashi UEGISHI
「私は自由と規律のバランスを、大事にしています」
[J1 31節] 広島 4-1 浦和/2022年10月1日15:00/エディオンスタジアム広島
浦和レッズはJ1リーグ31節、サンフレッチェ広島戦に1-4で敗れた。直近のルヴァンカップ準決勝セレッソ大阪との第2戦(●0-4)に続く4失点大敗。公式戦は5試合勝利なしとなった。
リカルド・ロドリゲス監督が、好調だった前線の並びに変化を加え、CFアレックス・シャルク、トップ下・松尾佑介、右MF大久保智明として臨んだ9月14日のリーグ戦でのC大阪戦(●0-1)から流れが変わってしまった。
最近5試合のうちC大阪が3試合。リーグ戦が0-1、ルヴァンカップ準決勝が1-1、0-4と、一度も勝てなかった。
そのC大阪の小菊昭雄監督がルヴァン杯準決勝第2戦のあとの記者会見で語った一言が印象に残っている。
「私は自由と規律のバランスを、大事にしています。(第1戦では)立ち位置のところで少し自由のバランスが重くなったと見受けられ、そこで一人ひとりが立ち位置をしっかり取りながら重ならないように、もう一度、微調整しました。それが得点につながったところで、選手たちは表現してくれました」
自由と規律。
その言葉を浦和に当てはめて考えてみると、リカルド監督は「規律」をより重視するスタイルを構築してきた。
ざっくり言うと、カウンターを受けてしまいかねない中央エリアでの攻防のリスクをできるだけ避け、サイドを活用しながらボールを運ぶ。ギャップを突きながらより多くのチャンスを作り出し、その一つをモノにする――。
今季はそのスタイルがハマった時、より高い可能性で勝利を収められるようになった。ただし、相対的に個々の力が上回っている相手に対して、と条件もつく。
特に最近のC大阪戦など、浦和自陣ゴール前、先に数的優位な状況を作って重圧をかけていこう、というハイプレスには苦戦を強いられている。先のサンフレッチェ広島戦での西川周作と柴戸海の連係ミスを突かれた失点も、単純ミスと少し異なり、“狙われていた”現象の一つと言えた。
敗れたルヴァン杯準決勝第2戦のC大阪戦後、岩尾も「狙われているな、とは感じた」と言うなか、チーム全体のプレー選択が限定され、結局、相手の思惑通り、ロングキックに逃げてボールを回収されたり、横パスをかっさらわれたりと推進力を生めなかった。手を封じられたあと、打開策を見出せずにいる。
また指揮官はコンパクトな陣形を保ち、技術の高い中盤タイプの選手を並べるゼロトップ的な戦いを好み、“チャンスのチャンス”は増加した。一方、チャンスをコンスタントに決め続けられる選手を確立できずにいる。
一方、昨季のルヴァンカップ準々決勝第2戦の川崎フロンターレ戦(△3-3)、天皇杯決勝の大分トリニータ戦(〇2-1)、今季のACL準決勝の全北現代モータース戦(△2[1EX1]2、〇3PK1)など、ここぞという一番での勝利は、ギャンブルが奏功したり、あるいはキャスパー・ユンカーら個の能力を爆発させた時に掴めてきたものも多い。ある程度、「個=自由」に委ねた時だったとも言えた。
単純により「自由」を与えるべきだ、と言っているわけではない。ただ、規律重視により、結果的に個々の武器が最大限にチームに還元されていない、そんな試合も増えていると感じる。
もちろん、C大阪は逆に前線の選手が自由奔放にプレーすることで結果を残してきた過去のインパクトが強く残っている。それだけに小菊監督の言葉は、そこで「規律」をしっかり打ち出し、バランスを取ろうとしているのだと分かる。大分トリニータでの10代の頃からプレーを知る為田大貴が、プレスバックを組織的に自然と行っているあたり、規律の植え付けがかなり浸透していると感じた。とはいえ一方、次々と出てくる若いタレントがその規律を重んじれば、個が埋没してしまわないか、というテーマと向き合っているとも感じた。
その比重に“答え”はない。ようやく最適解を見つけた! と思っても、相手の打ち立ててくる対策、個々のパワーバランス、選手個々の調子、そして移籍などで、長くは続かないのかもしれない。いや、だからこそ「自由」に委ねすぎず、チームの根幹をなす「規律」でありスタイルは重要である。
ギャップを突いてゴールへの流れを作るリカルド監督のスタイルは、そこにボランチの伊藤敦樹、さらにはアンカーの岩尾憲まで高い位置に絡んでくるなどリスクを冒すと迫力が増す。一方、スペースを丁寧にしっかり突くという意識が強まってしまうと、逆にゴールに向かうベクトルが分散されてしまう。そのリスク分散も一つの狙いではあるが、ただ“全員でゴールに襲い掛かっていく”という雰囲気がやや不足し、それがスタジアムに伝播してしまうこともある。
リカルド監督の就任2年目。選手たちの頭の中が整理され、ビルドアップの段階で迷いなくプレーできるようになっている点はプラス材料だ。その先へ突き抜けるには――。
確かにリカルド監督の口から、あまり聞かない言葉だとも感じた。いろいろな意味で解き放たれていく「自由」もまた、浦和のテーマになっていくかもしれない。
[文:塚越始]
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