Jリーグ下部組織「21歳に引き上げ」本格検討を開始
昨年のU-19アジア選手権に臨んだU-19(現U-20)日本代表。(C)AFC
18歳で一旦終わる育成の概念を再考し、U-21リーグ創設も視野。
Jリーグは2月13日、2030年までの新たな育成の施策「PROJECT DNA」を発表した。同日行われたJリーグの代表者が集まる実行委員会で説明された。同委員会のあと、原博実副理事長、黒田卓志フットボール本部長がメディアに対し、プロジェクトについてのブリーフィングを実施。そのなかで、現在U-18(18歳・高校3年生)までが一般的なJリーグの下部組織について、21歳まで年齢を引き上げる検討を開始したことが報告された。
「PROJECT DNA」は、Jリーグから世界トップレベルの人材を輩出するため、Jリーグが各クラブをサポートする新たな枠組みやシステムを構築していくというもの。ウェストハムのアカデミーで多くのタレントを輩出するとともに、クラブに多くの利益をもたらしてきた”アカデミー運営のプロ中のプロ”と言えるテリー・ウェストリー氏がフットボール本部テクニカルダイレクター・コンサルタント、アダム・レイムズ氏がフットボール企画戦略ダイレクターに、それぞれ着任することも発表された。
その改革の一つとして、議論に入ったのが、Jリーグ下部組織の年齢を21歳に引き上げるプランだ。
黒田本部長は次のように説明した。
「Jリーグの多くのアカデミーは、18歳で育成を終えています。そのあとはトップチームに昇格するか、大学に進むか、その二つしか(サッカーを続ける)選択はありません。18歳で育成が終わるという概念を、もう少し引き上げて、クラブのアカデミーが21歳まで選手を育成するという考え方で、試合環境を作れないかと議論を始めました」
Jリーグ各クラブでは、高校まで中心選手として活躍した選手がプロ1、2年目に出場機会を得られず伸び悩むケースが少なくない。また、トップチームに昇格できるかどうかというギリギリのレベルでプロになれなかった選手も、基本的に大学に進む以外にキャリアを続ける道がない(思い切って海外のセレクションに挑むケースもあるが)。これまでもJリーグU-22選抜チームのJ3参戦、J1の3クラブのU-23チーム結成など取り組みが行われてきた。
そんなユースの”当たり前”の常識について、Jリーグが改革を施し、新たな枠組みを作ろうという。同日発表された施策の一つとして、試合機会を増やすため「U-21エリートアカデミーリーグ」の創設が提案されていた。
このプロジェクトに携わることになったウェストハムのアカデミー・ダイレクターやヘッドオブコーチングを務めてきたウェストリー氏は、次のように語った。
「Jリーグがここからさらに成長するために、『現在の成長』と『未来の成長』を考えていきたい。『現在の成長』だけでは、いずれ停滞し、下降を辿ってしまいます。そうすれば世界のトップと離れるだけです。『未来の成長』もしっかり意識して取り組んでいきたいです」
つまり「未来」とは育成面への「投資」にあたる。そこにより重点を置いて改革に着手したいという。
「もちろん過去に行われてきた取り組みへのリスペクトはあります。それを踏まえ、成長を考えていきたい。特にダブルパス社(※ベルギーの会社で、クラブユースの育成面を数値化して評価を行ってきた)の監査によって出てきた結果をしっかり受け止め、成長につなげていきたいと考えています。
そのうえで、アカデミーのU-12、15,18、そして21歳、トップチームまでつなげる。そういう経路を築ければと考えています」
同氏はU-21を設けることで、「育成の流れ」をよりスムーズにして、かつ受け皿であり、選択肢を作る狙いを示した。
一方、若い選手の試合機会を増やす意味では、U-18(高校世代)、U-15(中学世代)で出場機会を得られずいる選手の「移籍」の緩和なども、今後のテーマになってくる。「他チームに行けば試合に出られるレベルでも、3年間、控えで終わってしまうケースもある」(黒田本部長)。
世界の潮流に乗るため、下部組織全体として、Jクラブユースが率先し、新たなルールや枠組みを作っていく可能性も出てきた。
もちろん、育成年代のクラブユースが利益を追求すべきなのか、という議論も必要だろう。各クラブユースが選手をしっかりプロテクトすることで、強化につなげてきた一面もある。
とはいえ、Jクラブユースはプロフェッショナルの選手を育てるための機関。Jリーグが世界のマーケットの中で競争していくには、近年は柔軟にはなってきているものの、これまで一般的だった「18歳(高校3年卒業時)が分岐点」という概念そのものが徐々に、しかし大きく変わっていくことになるのは必然の流れかもしれない。
育成面の大きなテーマについては、今後、リーダーシップチーム(メンバ―未定、旧アカデミー分科会)で協議されていく予定だ。
取材・文:塚越始
text by Hajime TSUKAKOSHI