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心熱き冷静なコンダクター大宮の石井正忠監督に懸かる期待――鈴木満強化部長が語った鹿島での指揮官抜擢の舞台裏

石井監督のもと、大宮が1年でのJ1復帰を目指す。(C)SAKANOWA

鹿島の監督選びの基準。抜擢された濃密な日々の蓄積が、今度は大宮で試される。

 昨シーズンの最終盤から大宮アルディージャの指揮を執る石井正忠監督。彼にとって大宮は鹿島アントラーズに続き、監督としてチームを率いる2度目のクラブとなる。

 チームの全権を託されるトップの指導者としての時間的経験は、それほど長くない。しかし、その内容は時間と反比例して豊富だ。

 鹿島の鈴木満強化部長によると、2015年に鹿島トップチームのコーチを務めていた石井には、そのシーズンを最後にコーチとしての契約を終えることを告げていた。石井を指導者として一本立ちさせるためで、2016年シーズン以降、他チームの指導者になることを認めた形だった。

「他のチームで監督になれと言っていたんだけど、うちの監督になるとはね」

 鈴木強化部長は振り返る。

 2015年の鹿島は第1ステージ8位に終わり、第2ステージで松本山雅に敗れて1勝1分1敗となった時点で、トニーニョ・セレーゾ監督の解任が発表される。急転直下、「低迷するチームの内情を把握してくれている」として石井の監督就任が決定する。するとヤマザキ・ナビスコカップ(現・ルヴァンカップ)に優勝。2016年には鹿島にリーグ優勝をもたらした。

 優勝を宿命づけられ、小笠原満男を中心とした選手たちが、貪欲に勝利を追求する。確かに鹿島には他のJリーグのチームにはない独特のプロ意識が存在する。例えばブラジル代表75試合・39得点という実績を持って2000年に加入したベベットだったが、コンディション不足を露呈。ストイックに勝利を追求するチームに合わず、8試合・1得点という低調な成績を残しシーズン途中に退団している。

 そうした鹿島にあって鈴木強化部長は「うちの監督をやるのは難しい」と評す。フロントとしては「6位」が監督交代の目処と考えている。一般的に捉えれば悪くない成績だが、鹿島ではその順位では「低い」と判断される基準点になる。

 フロントの厳しく明確な評価に加え、選手たちからも自分たちを納得させるサッカー理論と指導力を兼ね備えていなければ、受け入れられないという強い意志が伝わってくる。そうしたプロの判断がサポーターからの支持にもつながっている。

 石井監督はその環境下で密度の濃い時間を過ごし、勝利することの喜びと、結果を残せなかったときの厳しさの両面を経験した。

 こうした経験を経て、一人の楽しみな指揮官がJの舞台に立つことになった。今回はオフからチーム作りに携わってきた。大宮の前身であるNTT関東でのプレー経験のある石井監督が、ロビン・シモヴィッチや三門雄大ら実力派を加えた大宮をJ1へと導けるか。その手腕が試される。

文:徳原隆元
text by Takamoto TOKUHARA

Posted by 徳原 隆元

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