ハマの新守護神候補、J1デビューGK朴が監督から受けた「たった二言の先発予告」
横浜FMのGK朴一圭。(C)SAKANOWA
試合前日の練習後、ポステコグルー監督に呼び出されて。
[J1 6節] 横浜FM 0-0 鳥栖/2019年3月29日/日産スタジアム
今季FC琉球から横浜F・マリノスに完全移籍で加入したGK朴一圭が3月29日の6節・サガン鳥栖戦、J1リーグ戦デビューを果たした。
すでに横浜FMのユニフォームを着てルヴァンカップの2試合に出場していたが、北海道コンサドーレ札幌戦は1-1、湘南ベルマーレ戦は0-2と、チームに勝点3をもたらせずにいた。
今回の鳥栖戦前日の練習後は松永成立GKコーチと膝を突き合わせて、現在抱えている課題について意見を交わした。ただ、その時点では、まだ鳥栖戦での起用については一切決まっていなかったという。
「ルヴァンカップの2試合で良かったことと悪かったことがあり、ただマリノスのサッカーの中で自分の良さを出すには、どのようなプレーをしたほうがいいのか悩んでいました。シゲさん(松永GKコーチ)は常に映像をチェックしてくれているので、そこでどうしたらいいかという話し合いをしました。普段からもそうした話はしていますが、たまたま今回長くなったので、皆さんにはそのように(先発に関する話)思われたかもしれませんが」
実際はそのあとだった。アンジェ・ポステコグルー監督から呼び出された。
すると朴は”二言”だけ、指揮官から言われた。
「準備できているか。明日、お前で行くからな」
朴はもちろん頷いた。
ただし、ルヴァンカップ2試合のパフォーマンスが決して良かったとは思っていなかったので、本音は驚いた。内心では少なからず不安も駆け巡ったという。
「正直、ルヴァンカップとリーグ戦では相手のレベルのクオリティが違います。ルヴァンカップに出て、リーグ戦でベンチに入っても、相手選手の質の差を感じていました。僕らはパスをつなぎます。小さなミスとは言えないようなミスも失点に直結しかねないので、やれるのか、通用するのか、という緊張や不安はありました」
それでも鳥栖戦のキックオフを迎えたあと、一つひとつプレーするごとに緊張はほぐれていった。
「鳥栖がどのようにプレスをかけにくるのか」という読めないところがあったが、「相手はリトリートを徹底していました。これは、大丈夫だと思いました」。
そしてビルドアップ面で、横浜FMの背番号1は「ボールが来たら、シン(畠中槙之輔)、チアゴ(マルチンス)、キー坊(喜田拓也)にしっかりつけて、リズムだけ崩さないように意識しました」と心掛けた。
「シンもチアゴも足下の技術が長けているので、困ればボールを預ければなんとかしてくれます。そこはキャンプから一緒にやってきて分かっていたので、できました」
J1のピッチに立つ。それを、これまでの自身の目標としてきた。ただ、試合開始を迎えると、そんな自分自身の思いは過去のものとなり、ただ、チームの勝利のために何ができるか――そのことしか頭に浮かばなくなっていたと言う。
結果、無失点に抑えてみせた。
「とはいえ自分たちが主導権を握り続けることができていたからこそ、ピンチと言えるシーンも限れていました。チームとして失点ゼロに抑えられたことは、非常にポジティブに捉えています」
朴はそのようにチームメイトへ感謝していた。
ルヴァンカップのグループステージとは、相手のプレッシャーも、対策の練り方も全く異なった。そのなかで金崎夢生と豊田陽平が前線に入る鳥栖にほとんど攻め込まれず、無失点に抑え、勝点1をチームにもたらしたことで、一つ結果を残した。
「これまではトレーニング中でもこなす作業が多くなり、安パイなところにパスをつけるプレーが目立っていました。本当はこうしたい、という意図を持ったパスを出したい。それが自分から発信できずにました。今日はそこに着眼してできて、中距離のキック3本を蹴って1本をマルコス(ジュニオール)に通すことができました。もっとそういうシーンを増やしていきたい。今日も1本しか成功していませんが、これまではそれをトライすることもなかった。チャレンジできたのは成長できたところだと前向きに捉えています」
もちろん、これまでゴールマウスの前に立ってきた飯倉大樹は実績十分で、いつでもこのマリノスのスタイルに加わることができる。ここからさらに切磋琢磨し合う関係になる。
ノルマと言える勝点1をチームにもたらした。ハマの新守護神候補の朴一圭がリーグ無失点デビューを果たし、大きな一歩を踏み出した。
取材・文:塚越始
text by Hajime TSUKAKOSHI