【浦和】ACL逆転劇の舞台裏。選手への「メンバー発表」も試合直前だった
アウェーの蔚山現代戦に先発した浦和の選手たち。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA
宇賀神の右ウイングバック抜擢、チームメイトも驚いたファブリシオのシャドー初起用。いずれも奏功する。
[ACL 決勝T①-2nd] 蔚山現代 0-3 浦和/2019年6月26日20:00/蔚山文殊サッカースタジアム ※2戦合計 4-2で浦和がベスト8進出
アジアチャンピオンズリーグ(ACL)の決勝トーナメント1回戦・第2戦(セカンドレグ)、浦和レッズが豪雨に見舞われたアウェーの地で蔚山現代から3ゴールを奪い、2試合トータルスコア4-2として、ベスト8進出を決めた。2017年以来のアジア制覇へ、一つ大きな関門を突破した。
勝ち上がるためには「2ゴール」が必須だった。1失点しても、その条件は変わらない(2-0で勝利、2-1では延長戦)。もちろん、さらに打ち合いになる場合もある。延長戦に突入した場合、3人プラス1人の交代枠が追加される――。いろいろなシチュエーションが想定された。
そこで今回、通常であればアウェーゲームは、先発11人+控え7人の18人、加えてバックアップ1人の計19人で遠征することが多いが、さらに1人多い20人で韓国に乗り込んだ。
つまり2人がメンバー外になる。
試合前日の練習は、冒頭15分のあと非公開となった。しかし選手によると、「今回は、試合当日でも、いったい誰が出るのか、まったく分からなかった」と言う。
公開されたウォームアップの段階から、目を光らせて選手一人ひとりのパフォーマンスをチェックする大槻毅監督の姿があった。指揮官はギリギリまで選手たちを競わせ、さらに試合当日の天候やさまざまな試合展開を鑑みたうえで、「11人+7人」を決断した。
試合当日の昼のミーティングで、メンバーが発表された。そこから一息ついたあとに準備して、スタジアムへ向かう。出発の直前であった。
大槻監督が一人ひとりの名前を告げ、右ウイングバックに宇賀神、シャドーにファブリシオと、主戦場とは異なるポジションでの起用が明らかになる。そしてキーとなる選手に、指揮官から何を求めているかの説明があったという。
宇賀神は「練習の段階から、あらゆるポジションで、あらゆる状況を想定して準備していました」という。それでも、今季まだ公式戦で一度も起用されていなかったファブリシオのシャドー起用は、チームメイトにとってもサプライズだったという。直前の練習試合で結果を残したことで、指揮官にさっそく買われた。
ベンチから外れたのは鈴木大輔と汰木康也だった。彼らは試合後の荷物を繰り返し運ぶなど、チームを支えていた。
ピッチ内では、指揮官が「出来すぎだった」と認めるほど、選手たちは悪コンディションを物ともせず、それぞれが役割をまっとうした。
宇賀神は相手チームのキーマンであるサイドアタッカーの7番キム・インソンと対峙しながらチャンスをうかがった。そして40分、「どこかで縦に一発行ってやろうと思っていた」とサイドをえぐるドリブルからクロスを放ち、興梠慎三のヘディングによる先制ゴールをアシストした。
宇賀神は右ウイングバックでの起用を意気に感じたという。
「森脇くんがいて、橋岡がいて、右サイドをできる選手がたくさんいるなか、右で使ってくれるという意味を、僕は示さなければいけないと思って臨みました」
実際、宇賀神は求められる役割を整理し、把握したうえで、ピッチに立つことができたそうだ。
「試合には敗れたものの第1戦は、ウチの右サイドで優位性を作れていました。比較的自由にできていたので、今回は修正してくるかな? と思いましたが、ウィークになったままだった。そこで僕が上手くコントロールすることで、岩波、武藤との関係から、優位性を保つ時間を多くできました」
賭けではなく、理論立てての抜擢とメンバー編成だった。何より快勝での”大逆転劇”に宇賀神は「本当に誇らしいし、自信を持っていいのかなと思います」と笑顔を浮かべ、胸を張った。
取材・文:塚越始
text by Hajime TSUKAKOSHI