まさに総力の勝利。ベレーザがINACとの大一番で手に入れた強さ
INAC戦、ベレーザの植木理子が決めた!写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA
籾木結花プロデュースの一戦。ホームの雰囲気を生み、長谷川唯の投入が分岐点に。植木理子が劇的弾!
[なでしこL 11節] 千葉L – ベレーザ/2019年10月23日/ フクダ電子アリーナ
※台風による順延分
熾烈な優勝争いが繰り広げられているなでしこリーグは16節、暫定2位の日テレ・ベレーザが3位のINAC神戸レオネッサを2-1で下し、自力優勝へ向けて大きな1勝を手にした。1試合消化試合の少ないベレーザは今日10月23日、19時からジェフユナイテッド市原・千葉レディースと対戦。残り全勝すれば、首位の浦和レッズレディースを抜いて逆転優勝できる状況に持ち込んだ。
すべてが完璧と言えるようなドラマチックな展開だった。10月20日、恒例となりつつある籾木結花がプロデュースする「5000人プロジェクト」の効果は絶大だ。緑色に染まった味の素サッカーフィールド西が丘で、ベレーザが最高のシナリオが作った。
開始3分にINACの守屋都弥に先制ゴールを許し、早々にビハインドゲームとなった。しかし後半、徐々にベレーザがリズムを取り戻す。
それでも決定打が生まれない61分、永田雅人監督が切った一枚のカードが試合を大きく動かす。ケガでベンチから戦況を見守っていた長谷川唯が投入されたのだ。
するとおよそ4500人以上で埋まったスタンドがどよめく。なでしこリーグではめったに見られない“ホーム”の熱いうねりに後押しされるように、長谷川の一つ一つのパスに歓声が起きた。
その直後、声援に応えるようにゴールライン際で粘り強くキープした小林里歌子からのボールを籾木がねじ込んで同点にする。ここで永田監督はすかさず、遠藤純、植木理子を立て続けに投入し、一気にギアを上げると、これが見事にハマった。
アディショナルタイム、遠藤のCKのこぼれ球を籾木が折り返すと、植木がヘッドで合わせて試合を決めた。
ウォーミングアップ時から植木は自身の調子の良さを感じ取っていたという。6月のFIFA女子ワールドカップ直前に右膝を負傷し、無念の帰国を余儀なくされた。
夏のカップ戦決勝でも復帰は叶わず。今シーズンの苦しみは彼女にとって大き過ぎるものだった。そんな彼女のためとも言えるように、コンディション、メンタル、そして最高のスタジアム環境、すべてが整っていた。
ピッチに入ってから植木の放ったシュートはすべて完璧にミートしていた。
植木は「むしろ入らないのが不思議なくらいで、焦りも感じ始めていた」と言う。
最後の最後でその想いが結実。「打った瞬間、ゴールに入るまで時間がゆっくりと感じられました。自分自身でも鳥肌が立った」と植木は、何度もガッツポーズを見せた。試合終了の瞬間にはピッチに突っ伏したが、植木の長い夜が明けた瞬間だったと言えた。
決勝ゴールを挙げた植木はもちろん、途中交代で空気をガラリと変えた長谷川、遠藤もその役割を果たした。何より、この後半のトップギアに入った状態をより効果的にしたのは前半のベレーザの戦いぶりだった。
INACが前半の戦いにパワーを注いでくることは、過去の対戦からもスカウティングしていた。その上であえてU-19女子代表(10月28日からFIFA U-20女子ワールドカップ出場権をかけたAFC U-19女子選手権に出場)にも選出されている菅野奏音をはじめ、中盤を若い選手で構成し、INACとの大一番にぶつけた。永田監督は文字通り総力戦で、後半のギアアップへの伏線を引いていた。
「失点も想定内。立ち上がりから裏を狙って、前から押し込むこともできる。でもそれで見えなくなるものもあり、体力も(無駄に)失う。それでは90分間戦うことを味わえない」
永田監督はそのように語っていた。
若い選手が多いベレーザは、勝利を重ねながら選手の意識を高めていく。
リーグ優勝の行方を左右する大一番、指揮官はシーズン通して貫いてきた選手自身に気付きを与えることを組み入れ、そのうえで勝負にもこだわった。後半3枚のカードを切った末、アディショナルタイムのゴールで、このシナリオは完成した。
前後半でそれぞれ奮闘した選手、それを確実に押し上げたファンとサポーター、そして指揮官の策――。そのどれか一つが欠けていたら、この劇的なゲームは生まれなかった。
全てが一体となった勝利。ベレーザにまた新たな強さが加わったと言える、大きな1勝になったに違いない。
それでもなお、伸びしろがある。このチームは一体どこまで強くなれるのか。限界はまったく見えない。
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[取材・文:早草紀子]