鹿島7連勝を支えるGK沖悠哉に、内田篤人が見せた親心「自慢の息子ですよ」
2018年の新体制発表より。沖悠哉(31番)と内田篤人(2番)。左が犬飼智也。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA
2018年の新体制発表のひな壇で――。
[J1 19節] 鹿島 – 大分/2020年9月27日17:00/カシマサッカースタジアム
J1リーグ鹿島アントラーズの3年目、21歳のGK沖悠哉が8試合連続で先発フル出場を続け、引き分けのあと7連勝と勢いに乗るチームを支えている。23日の湘南ベルマーレ戦でも粘り強い守備を続け、90+4分のファン・アラーノのゴールによる劇的勝利をもたらした。
ザーゴ監督のもと、チームが低迷期から脱するタイミングで先発に抜擢されると、チャンスを掴んだ。沖が出場したリーグ9試合はこれまで負けなし。技術を生かしてビルドアップにも加わり、何よりピンチで見せる集中力の高さと瞬発力が光る。
その沖が加入したのは2018年だった。
1月10日に行われた新体制発表会では、こんな微笑ましい印象的なシーンがあった。
大勢のメディアが集まった注目の的は、このほど引退した内田篤人だった。
ドイツからの8年ぶりの帰還。真新しい鹿島の「2番」のユニフォームを着た内田は、覚悟を決めたように、TV、ラジオ、ペン……長時間に及ぶ取材に応じていた。
そしてホールの隅で、記者に囲まれての取材がかれこれ15分ほど続いていた時だった。
内田たちが先ほどまで記者会見のため登壇していたひな壇で、新加入選手が順番に記念撮影をしていた。そして鹿島ユースから昇格した弱冠17歳だった沖が両親とともにオフィシャルカメラマンに写真を撮ってもらっていた。緊張しっぱなしだったルーキーが、何とも言えない固い笑顔を浮かべながら、プロとしての一歩を踏み出していた。
「いいですね」
ちょっと取材は小休止に。内田はその光景を見つけて微笑んだ。
「家族での写真、いいですね。ほのぼのとしていて。自慢の息子ですよ。親になって分かります、きっと心配もあるでしょうね」
長女が誕生したばかりの内田は、選手とともに、父親の心情も察していた。
沖は記者会見の席上、「小さい頃から夢見てきた鹿島アントラーズの選手になれることができて非常に嬉しく思っています。1日でも早く試合に出て、チームの優勝に貢献できるように頑張ります」と抱負を語っていた。
その「1日も早く」をまず誰よりも待ち望んでいたのが、沖の一番身近なサポーターでもある両親だったに違いない。
鹿島の新体制発表では、恒例となっているシーンだ。それは厳しく熾烈な戦いへ向かう前の、最初で最後の微笑ましい光景とも言えるかもしれない。誰もが理解している、覚悟を固め未来へ向かうための最高の1枚。そして内田もまた「心配はあるでしょうね……」と、そんな“親心”を沖に感じていた。
あれから3年が経った。内田が引退し、沖がレギュラーの座を掴もうとしている。誰もが想像していなかった未来が待っていた。
勝利を追求する。きわめてシンプルだが、その実現と継続は難しく、深遠なる世界でもある。そのために仲間を最大限にサポートする。人を思いやる、相手の気持ちを想像する――。そういったファミリーのいたわりも不可欠な要素だ。が、あくまでも前提は勝利のため。仲良し集団ではなくプロの集団として。
内田から沖へ、沖から――。こうして鹿島の血脈は受け継がれていくのだろう。
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[文:塚越始]