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「やり甲斐は本当にたくさん」J史上初の女性主審デビュー、山下良美氏が一番“難しかった”シーンは?

J3リーグYS横浜対宮崎戦で主審を担当した山下良美氏。写真提供:日本サッカー協会/(C)JFA

J3のYS横浜対宮崎戦を担当。両クラブから「全くストレスを感じないレフェリングだった」と高評価。

 J3リーグ8節のY.S.C.C.横浜対テゲバジャーロ宮崎戦が5月16日に行われ、山下良美主審が女性審判員として初めてJリーグの試合を担当した。日本サッカー協会(JFA)は翌17日、オンラインで記者会見を実施。山下氏がJリーグ“デビュー戦”を振り返るとともに、審判員のやり甲斐、今後の抱負などを語った。

 女性初のJリーグ公式戦の主審。その責任をまっとうしたことについて、山下氏は次のように語る。

「両チームの選手ともプレーに集中していて、私自身がストレスを溜めるようなシーンはなく、とてもフェアにしてくれていたと思います。(難しいと感じたシーンは?)どの試合でも、どの場面でも『難しい』と思うことはありません。難しかったといえば、コイントスでしたね(笑)」

「試合を担当するにあたって、とても大きな責任を感じていました。今まで先輩方が築いてきた道をつないでいく役目もあります。JFA、Jリーグの方々、チーム、選手、観ている方々の理解、全国いろんなところで積み上げてくれている信頼があってこそ、この機会をいただき、そういったものを背負って試合を担わなければいけないという責任を感じていました。ただ緊張感に関しては、試合が始まってからはそんなことを考える暇もなく臨みました」

 裏方ではあるものの、試合を成立させるためには最も欠かせない存在である。山下氏は「男性でも女性でも審判員というものに、少しでも注目していただける機会になっていただければ、すごく嬉しいと思います」と、この一歩を受け止めていた。

「(楽しさを感じることは?)やり甲斐は本当にたくさんあります。フィールドを走り回りながら頭を使うのは、選手と同じように楽しい面だと感じます。また、このフィールドに立ちたかったと目指せるのも審判員の魅力だと思います。それに競技規則を深く理解し、審判員の技術、精神面まで理解できると、より観ている試合が面白く、よりサッカーが楽しくなるところはあります。

 それにポジションどりをする時、選手や戦術を分析して、ちょっと指導者に似た視点で予測をするのですが、思いがけないことが起こると、『こんなことを考えられるんだ』と目の前で驚かされもします。何より審判をすることで、この1試合のためにいろんな方たちが準備してくださっていて、その結晶がここにあるんだと実感しますし、運営に携わるたくさんの方々との出会いがやり甲斐にはなってきました」

 主審として印象に残っている試合には、2015年12月27日に等々力陸上競技場で行われた皇后杯決勝INAC神戸レオネッサ対アルビレックス新潟戦を挙げた。

「とてもたくさんの方が観に来てくれて(2万379人が来場)、そのあともとても反響がありました。フィールドに立って周りを見渡した時、女子サッカーがこれだけの人の心を動かせることができる、そういう力を感じました。とても印象に残っています」

 そして、今後の目標について問われると、山下主審は次のように語った。

「今後はこの機会が続いていくこと、そして女性審判員が男性の試合を担当するのが当たり前になっていくことが、私が目標とするべきところだと思います。そのために私ができるのは、目の前の試合に全力で取り組むことだと思っているので、1試合1試合しっかり担当していきたいと思います」

 一方、記者会見に同席したJFA審判委員会の黛俊行委員長は山下氏について、「今後は性別などではなく、実力で審判割り当てができる世界に変わっていく、その一番の入り口のところで頑張っていただきたいと期待しています」と語り、さらに進んで行けると背中を押した。

「(スタジアムに訪れていただけに)山下さんよりも緊張しているのではないかというぐらいの気持ちで試合を会場で見ていましたが、『安心して任せられる』と途中からは確信しました。両チームの強化担当者からも『まったくストレスを感じないレフェリングでした。安心して見ていることができました』と言われました。今後さらにステップアップして、J2、J1と進めるように期待しています」

 Jリーグ誕生から29年目に突入、山下氏の笛とともにまた新たな時代へと向かって行く。

J3リーグYS横浜対宮崎戦で主審を担当した山下良美氏。写真提供:日本サッカー協会/(C)JFA
オンラインで取材に応じたJ3リーグYS横浜対宮崎戦で主審を担当した山下良美氏。協力:日本サッカー協会

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[取材・文:塚越始]

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