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【日本代表】田嶋会長が求めた「運」だけではない「貴重」な埼スタの芝生

埼玉スタジアムでの浦和レッズのイレブンとサポーターによるコレオグラフィー。写真:上岸卓史/(C)Takashi UEGISHI

「寒地型芝」の維持・管理が難しいと指摘する埼玉県、土田氏ら委員会が選定した張り替えの芝は――。

 日本サッカー協会(JFA)の田嶋幸三会長が10月27日、埼玉県の大野元裕知事を訪れ、来年1月から3月まで行われるカタール・ワールドカップ(W杯)アジア最終予選のホームゲームで、今季シーズン後に予定されていた芝生の張替えを延期させて、埼玉スタジアムを使わせてほしいという要望書を提出したという。

 報道では、同スタジアムでのW杯アジア予選の21勝3分け1敗という驚異的な勝率があり、その「運」を呼び込むためにも工期を遅らせてほしい、という要望だと伝えられている。

 しかし、そこにはもう少し深い理由がありそうだ。埼スタの芝生は、今では日本で希少となった、ヨーロッパのスタンダードな品種なのだ。

 埼玉県が公開している資料によると、2019年3月から2020年2月まで4回にわたり、「埼玉スタジアム2002メインピッチ芝張替芝種選定委員会」が実施され、芝生の選定が行われてきた。

 委員は、髙橋新平氏(東京農業大学地域環境科学部造園科学科教授)、佐野忍氏(日本サッカー協会施設委員) 土田尚史氏(浦和レッズ 現スポーツダイレクター)、佐藤亮太氏(埼玉県公園緑地協会 埼玉スタジアム2002公園管理事務所芝環境課主任)、そして埼玉県議会議員埼玉県議会サッカー振興議員連盟。

 1回目では、芝生張り替えの必要性について、次のように県側が説明している。つまり、急激に進んだ温暖、異常気象により、これまでの「寒地型芝」の維持・管理が非常に難しくなっている。そのために新たな品種の導入を検討したいということだった。

「Jリーグが発足し、各サッカースタジアムが建設された当初は、『寒地型芝』を導入したピッチが多くあった。しかしながら、寒地型芝は日本の夏期の高温多湿の気候に弱く、維持管理に苦労を重ねた。

 そのため、日本の気候にあわせた暖地型芝へ移行するスタジアムもあり、多くのスタジアムが暖地型芝を採用するようになっている。

 また、近年ではJリーグが認めたハイブリッド芝の導入も増えている。

 この中で、埼玉スタジアム2002は寒地型芝のままのピッチとして歴史を刻み、ベストピッチ賞を4回(2005・2009・2013・2016)受賞するなど、寒地型芝のピッチとして貴重な存在となっている」

「現状では首都圏で唯一と言っていい寒地型芝のピッチは、日本のサッカー界にとっても重要な存在となる。

 暖地型芝のピッチ、ハイブリッド芝のピッチなど多様なピッチの存在が重要となる。

 また、世界に通用する選手の育成のためにも、多様なピッチ環境に馴れ、その上でのプレー経験の積み重ねが重要である。貴重な首都圏での寒地型芝ピッチの存在は、多様な芝環境でのプレー経験上でも非常に重要であり、存在意義は非常に高い。

 また、ヨーロッパの主要なリーグでは、ほとんどが寒地型芝であり、世界的プレーヤー育成のためにも寒地型芝のピッチでのプレーは重要である。さらに、維持管理技術は、育成して芝を育てあげ、⽇々の努⼒により徐々に蓄積されるため、17年間蓄積された寒地型芝の育成・管理技術の継承も、今後のサッカー界にとっては貴重であり、この蓄積の意義は大きい」

 スタジアムの完成当初は「ケンタッキーブルーグラス・ペレニアルライグラス・トールフェスク」、現在は「ケンタッキーブルーグラス・ペレニアルライグラス・トールフェスクの3系統7種類」が採用されている。

 また埼スタの地中には「地温コントロール」が整備されている。そこで夏期の温度設定は15~30℃で6月初旬~9月中旬までは冷房運転、冬期は約13~17℃で暖房運転を自動で行っている。

 そして建設から17年経ったことで、「サッカーの利⽤頻度向上への対応」、さらには「サッカー以外の利⽤率向上への対応」も視野に入れて、新たな芝生が選定されることになったのだ。

 これまで、複数の芝生が、ピッチのタッチラインやゴールラインのちょうど外にあたりに一部張られて、テストが行われてきた(その経緯も同委員会で報告されている)。

 そうして昨年の4回目の会議で、同委員会は新たな品種について、一つの「結論=提案書」を出した。

「天然芝(寒地型芝:ケンタッキーブルーグラス・ペレニアルライグラス・トールフェスク混合)」

 つまり“継続”である。

 その理由書は以下の通り。

◆――◇――◆――◇
 理由書

 委員会として提案した「天然芝(寒地型芝:ケンタッキーブルーグラス・ペレニアルライグラス・トールフェスク混合)」の理由については、以下のとおりである。

1 埼玉スタジアム2002における日照条件を考慮すると、「天然芝(暖地型芝) 」は年間を通じて良い状態を維持することが難しい。一方、「天然芝(寒地型芝)」は、埼玉スタジアム2002での夏季の高温を乗り切ることは難しい状況にあるが、地温コントロールシステムが備わっていることにより、良い状態を維持することが可能となっているため。

2 委員会が提案した「天然芝(寒地型芝)」は、現在の芝生のフィールド管理や利用の状況などを踏まえると、3種の芝草種の混合率や管理方法による展開で、今後の埼玉スタジアム2002の利用拡大に対応できるため。

3 埼玉スタジアム2002の現在の芝種でもある「天然芝(寒地型芝)」で浦和レ ッズをはじめとする利用者がプレーするにあたり、芝種に対する不満、改善要望 は聞かれていないため。また、現在の「天然芝(寒地型芝)」での年間を通してのピッチの状態に対して、Jリーグからも高く評価されているため。

4 埼玉スタジアム2002では、これまで多くの日本代表戦が開催されており、ま た、好成績を上げていることを考慮すると、現在の「天然芝(寒地型芝)」を変 える必要はないと考えるため。

張替にあたっての要望事項

委員会として張替にあたり、以下の事項について要望する。

1 埼玉スタジアム2002における県民の利用価値と利用拡大の促進(多目的利 用)を望む。

2 浦和レッズのホームグラウンドでもあるため、選手やチームが望むフィールド環境を叶えることができるフィールドの造成や管理技術の対応を望む。

3 埼玉スタジアム2002の進化と展開を図るため、また、多目的利用、選手とチ ームが望むターフクオリティ実現のために、管理技術ならびに管理運営に携わる スタッフの更なる認識と対応を期待する。

張替にあたっての留意事項

現在の「天然芝(寒地型芝)」は、現地での播種から造成された。今後の芝張替では、芝生生産圃場から運搬・導入が想定されるため、現状の管理技術と異なることを留意すること。

◆――◇――◆――◇

 そうしたなか、芝生の播種・育苗・育成については事業者の選定も終了している(張替業者は未定)。

 ただし、工期が予想外にかかり、今年12月から最大で来年5月までかかる、ということが県議会9月定例会で指摘されていた。

 諸井真英議員の質問に対し、村田暁俊都市整備部長は次のように答えている。

「(芝生張替の改修工事の期間について)令和元年度に委員会を設け芝生の種類を決定した時点では、養生期間が定まっていなかったため、令和3年(2021年)12月から着工し、令和4年(2022年)3月から5月までの間の完成を見込んでおりました。

 その後、詳細設計を行った結果、芝生養生に適した暖かい時期に合わせて3月まで芝の張替を行い、その後1か月の養生を経て5月のスタジアム再開を見込んだところでございます。

 芝生が十分に根付く前に利用を再開してコンディション不良となり、浦和レッズや日本代表などの選手、チーム、Jリーグや日本サッカー協会に迷惑をかけることは避けなければなりません。

 現在、工事の契約に向けて手続きを行っておりますが、契約相手が決まり次第、芝生の適切な養生を図りつつ、工期について施工者と協議してまいります」

――・――・――・――

 つまり、新たな品種、新たな工法の採用も検討された。そうしたなか、埼スタは「寒冷地芝」を改めて採用されることとなった。

 とはいえ、張り替えがスムーズに進むのか。しっかり根付くのか。そのあたりはやはり分からない部分もある。

 そして、早くもそのように工期に関して、県も“想定外”に伸びてしまうことを認めていた。

 来季2022シーズンは、ワールドカップとの兼ね合いで11月上旬にリーグ戦の全日程が終わる予定だ(入れ替え戦に巻き込まれなければ)。工期を延長するのであれば、そのあたりで、確かに落としどころは見出されそうである。

 とはいえ、すでに決定している事業者などへの補償なども課題になるだろう。同品種を選んでいることもあり、そのあたりがクリアされれば見通しは立つか。

 ただ、田嶋会長が動いたのは、決して「運」のためだけではなく、日本代表の大半が欧州組で占めるなか、この埼スタの選手からも高く評価される「ヨーロッパスタンダード」の芝生を必要とした背景も見えてくる。

 一方、埼スタの芝生が現在では、日本では「貴重」であり、そのうえ、維持・管理が相当に困難であることも分かった。

 そしてこの話題から、自治体はできれば暖地型芝やハイブリッド芝に移行し、スタジアムの多目的化を進めたい――という希望も把握できる。

 日本サッカー界にとって「寒地型芝」が“危機”であり岐路に立たされている。ここから、またいろいろな議論が起きそうだ。

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[文:塚越始]

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