【パリ五輪】なでしこジャパンが世界の中盤を制すために。厳しいマークに苦しんだ長谷川唯「感覚的には、まだまだ行ける」
パリ五輪での長谷川唯。写真:早草紀子(C)Noriko HAYAKUSA
明らかに狙われていた日本の心臓部。
なでしこジャパン(日本女子代表)の長谷川唯はその身長差を生かして、相手の懐深くへ恐れず仕掛けていく。パリ・オリンピックでは、スペイン、ブラジル、ナイジェリア、アメリカ……157センチのボランチはフィジカルで上回る国に対し、よりタフに挑んでいった。
なでしこジャパンの守備は連動性を武器として、パリ五輪では、そこに1対1の要素がより重視された。ただ今大会、長谷川は相手のこれまでにない、より厳しいマークに苦しんだ。
「自分が優位なタイミングで(相手選手へ)当たれていない。前からのプレスをかけていくなか、自分の狙い通りに、完全にコースを絞り切れない対人が多かったです。昨年のワールドカップの時の方が自分の狙い通りに行ったり、ここに来るっていうのをしっかり予測できたり、選択肢を少なくできたなかでのコンタクトも多かったです」
対戦相手は明らかに日本の心臓部であるマンチェスター・シティの長谷川、リバプールFCの長野風花をケア。長谷川にボールが入れば、二人あるいは三人がかりでも展開させないようにしていた。
「(3-4-2-1、5-4-1の場合)中盤では相手の枚数がどうしても多くなり、なかなかボールへ行き切れませんでした。ブラジル戦以降は少し良くなりましたが、奪い切れず、相手の選択肢を狭めるパスに向かわせる守備が多かったです」
フィジカル勝負に持ち込まれ続けては分が悪くなる長谷川にとって、予測で相手を上回っていくことが理想形だ。世界の中盤を制するだけの力はある。そのためには連動性を一段、二段高めることが求められる。
「ボールを取れる形をどんどん作れると思う。感覚的には、まだまだ行けると思います」
長谷川のそのプレービジョンも、もっと日本の武器として生かせるはずだ。
そして準々決勝のアメリカ戦。チームとしても守備面で一定の強度を保ち続けられたが、唯一破られたシーンから失点を喫した。
ただ、日本に必要だったのはゴールだった。相手の鋭利なカウンターを封じたものの、自陣深くで守る日本は武器とするショートカウンターをほぼ繰り出せなかった。
限られたチャンスをモノにするという共通意識は持てていた日本だが、そのチャンスの数はもう少し増やしたかった。攻撃に転じた直後の展開とイメージの共有――そこが不足したのは明らかで、女子W杯に続きベスト8に終わった。アメリカのパスサッカーが決して組織立っていたとは言えず、つけ入る隙はあったとも言えるだけに惜しかった(もちろん相手に隙を与えなかったとも言えるが)。
スペインが準決勝でブラジルに敗れる波乱があり、女子サッカーの上位陣はトーナメントでどこも勝ち上がれるチャンスのある情勢にある。そこに日本も入っている。が、アメリカやスペインのような怖さは与えられずにいる。
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攻守でもっと連動性を磨き、加えてよりタフに。そのカギを握るのは、長谷川唯のさらなる成長に他ならない。
取材・文・写真/早草紀子
text and photos by Noriko HAYAKUSA