本田圭佑→西大伍→岡崎慎司、指導者S級制度の議論「母数を増やすべき」
ロシアW杯日本代表での本田圭佑。 写真:新井賢一/(C)Kenichi ARAI
本田のツイートを発端に、現役選手が意見を交わす。
ロシア・ワールドカップ日本代表メンバーでメルボルン・ビクトリーに所属する本田圭佑が9月18日に以下のようにSNSのツイッター(アカウント名は、@kskgroup2017)でつぶやき、様々な意見が出るなど議論に発展した。
「今のコーチングライセンス制度は廃止して新しいルールを作るべき。プロを経験した選手は筆記テストだけで取得できるのが理想。 母数を増やして競争させる。クラブ側も目利きが今まで以上に求められる。ただ選択肢は増える。 日本のサッカーはそういうことを議論するフェーズにきてる。」
このあとコメント欄に一般の方からの「母数を増やす案は、間違いない。プロサッカー未経験者からサッカー監督になる日本が出てきてもいいと思う」という意見に対し、本田は「同感です」とも答えている。
このあと、鹿島アントラーズのDF西大伍(@daigonishi22)がこの本田の意見に賛同。個人的な考えをツイートした。
「もうプロ経験してなくてもそれで良いよ あとはそれぞれのチームが面接でもなんでもで決めたら サッカー関係者だけで回してるのは危険だよね そもそも教え方を教えるって、つまんない」
ただ、この西の意見に対し、鹿島OBでもある岩政大樹氏(@_PITCHLEVEL)が「これは安易な発言。一面しか見えてないな。指導者ライセンスは教え方を教えてるわけではありませんしね。 ただでさえバラバラの日本の育成事情をどう捉えるべきか。今の制度のままでいいわけはありませんが、指導者ライセンスの講習会によって、たくさんの方がヒントを得て帰っていることも事実です。」と釘を刺す展開に。
論点を整理して、本田は次のように改めてつぶやく。
「そんな難しいことは言ってない。良いルールは守り、悪いルールは変えればいいだけ。 そして自分の為に言ってるんじゃない。僕は既に実質監督やってるしね。 先ずは将来的に監督になりたい影響力のある選手達が行動しなきゃいけない」
これに追随して岡崎慎司(@okazakiofficial)が意見をする。
「圭佑の場合は特別だとして、実際ライセンス取得した人がこういう議論をもっとして欲しいとは思う。 選手と指導者は俺は真逆の立場で簡単に指導者になれるとは思わない。ただ選手として経験した部分は強みにはなると思う。だからこそしっかりしたライセンス制度で指導者を見極めるべきだと思う。」
本田、西、岡崎と現役選手に共通するのは、「S級制度を取るためには、門戸をもっと広げるべきではないか」という意見だ。
本田や岡崎は海外でプレーするなかで見えてきた日本の指導者事情(海外でトップレベルの指導者が出ていない、ライセンスが世界で通用しないなど)、30代に突入した西は現役Jリーガーだからこそ感じる現場の指導者事情を受けての発言と言える。
日本サッカー協会(JFA)の指導者B級以上を取得するためには(JFA管轄になるため)、Jリーグ各クラブからの推薦、また各都道府県のサッカー協会からの推薦が必要で、そこからA級、S級とトップレベルに絞られていく形となっている。(逆に言うと、まずC級までは誰でも取れる)
また、A級取得者の中で、国際Aマッチ20試合以上、プロの公式戦300試合以上の経験がある者もS級養成講座への参加資格も得られる。本田、岡崎、西らもこれに該当する。
とはいえ、確かにドイツは実力社会で、20代でホッフェンハイム監督に抜擢されたユリアン・ナーゲルスマンをはじめ、近年は指導力の高い若手が続々と登用されている。
徳島ヴォルティスのスペイン人リカルド・ロドリゲス監督も24歳で指導者の道を選択し、プロとしての道を歩んでいった。
67歳の浦和レッズのオズワルド・オリヴェイラ監督は、ブラジルの体育大学を経てフィジカルコーチになり、49歳でコリンチャンスの暫定監督に抜擢されて世界一に。そこから監督人生が始まった異色のキャリアの持ち主だ。
そう考えると、確かに日本ではトップチームを率いるまでには時間とお金がかかる、という点が課題には挙げられる。加えて、門戸が狭く感じられるのは、これまでは多くの優秀な指導者が高校や大学の教員になってきたことも関係しているだろう。
確かにJFAが”エリート”を絞り込みすぎる必要はなく、本田の言うように、競争にさらして淘汰されていくほうが現実的で、より面白い人材が出てくる可能性は感じる。
また、トップチームの監督の人事権を、出向先から来たクラブ社長や取締役会が握っているクラブも少なくなく、「知名度がある元選手、元指揮官」が新たな監督に落ち着くケースもいまだに目立つ。加えて、今回本田の発言はパラドックスを含んでいるとも言えて、むしろ「元プロ選手優先」の傾向が強いがために、一般からプロ指導者を目指す門戸が狭くなってしまっているとも考えられる。
いずれにせよ、44歳の鬼木達監督が川崎フロンターレを昨季Jリーグ優勝に導いたのは大きなトピックスだったが、Jリーグではなかなか新たな世代の監督が台頭せずにいるのも課題の一つに挙げられる。指導者の競争力を上げていく必要があるのは間違いない。
文:サカノワ編集グループ