【FC東京】「簡単な決断ではなかった」富樫敬真の背中を押した、横浜F・マリノスのコーチの一言
淡々と語るなかに決意を滲ませた富樫。23番は矢島輝一、9番は ディエゴ・オリヴェイラ。(C)SAKANOWA
「最初の気持ちが大事だよ」
「まだ間もないですが、マリノスのほうが(練習の雰囲気は)少しうるさい感じだったかなと思います。(多くのサポーターが詰めかける)すごくいい雰囲気のなか、いい緊張感を持ってできました」
富樫敬真は1月13日のイオンシネマシアタス調布での新体制発表会を終えたあと、そのように初練習の雰囲気について振り返った。
2015年、横浜F・マリノスの特別指定選手として突如巡ってきたJ1デビューが、奇しくも9月9日の第2ステージ11節の横浜国際でのFC東京戦だった。スコアレスの拮抗した展開のなか、終了間際の88分、中村俊輔の左サイドからのクロスに完璧にヘディングで合わせ叩き込んだ。これが決勝点になり横浜FMが1-0の勝利。背番号37を付けた関東学院大に通う無名の大学生が脚光を浴び、一躍ときの人となった。
その後はFC東京戦のピッチに立てば、痛烈なブーイングを浴び続けた。ただ、それが嬉しくもあった。
「あのスタンドの素晴らしい雰囲気は、間違いなくモチベーションになる、心強い限りです」
このオフ、多くのアタッカーを獲得したことからも、FC東京が昨季ワースト6位の総得点わずか37ゴールしか奪えなかった攻撃面の強化を最大のテーマにしていたことが分かる。そこで長谷川健太新監督が欲したのが、このスピードとパワー、そしてガッツを兼ね備えた富樫だった。
とはいえ、「そんな簡単な決断ではなかった」と富樫は明かす。リーグ戦では、16年は18試合・5得点、17年は16試合・2得点とゴール数は減っていた。そこにFC東京からのオファーが舞い込んだという。
「自分をいちから見つめ直したかった。できればJ1でチャレンジしたい気持ちが強かった。そこで今回の話をいただいたタイミングが重なって、覚悟を持ってこの決断を下しました。その気持ちをこの1年、しっかり表現したいです」
そのオファーが届いたあと、富樫は横浜FMのあるコーチに電話をしていたという。そこで、「最初の気持ちが大切だよ」と言われたことが心に響いた。そこで届いた自分自身の心の声は、「チャレンジしたい」だった。
淡々と語るなかに、強い闘志が感じられる。プロ初ゴールを決めたチームへの移籍に「何かしらの縁を感じる」。高卒か大卒かは異なるものの、振り返れば石川直宏もプロ3年目に横浜FMから期限付きで加入し、クラブの顔になっていった。24歳の富樫が本当のブレイクを果たしたとき、FC東京は強烈な上昇気流に乗れるはずだ。
取材・文:塚越始
text by Hajime TSUKAKOSHI