【天皇杯】なぜ中村憲剛は起用されなかったのか?鬼木達監督が明かした「切り札」構想
川崎の中村憲剛。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA
優勝からの逆算。中村も「こんなに幸せなサッカー選手はいない」と納得の2冠達成――。
[天皇杯 決勝] 川崎 1-0 G大阪/2020年1月1日/国立競技場
天皇杯決勝、川崎フロンターレがガンバ大阪に勝利を収めて初優勝、J1リーグとの2冠を達成した。
この試合が現役ラストマッチとなる中村憲剛はベンチ入りしたものの出場機会を得られなかった。
もちろん、川崎の「14番」の最後の勇姿を見たい。新国立競技場のピッチに立つ姿を見たい――そういうファン、サポーターの願望はあった。むしろそれを一番叶えたいと思っていたのが、鬼木達監督であり、川崎のチームメイトだったに違いない。
しかし勝負事だ。しかも1点差。一瞬で状況は一変する――特にこうした一発勝負では。昨年のルヴァンカップ決勝の北海道コンサドーレ札幌戦でも絶体絶命の状況に追い込まれている。それは川崎であり、中村が痛いほど知っている。
鬼木達監督は試合後の記者会見で、この日ばかりはラストゲームだった中村本人に「使えなくて申し訳ない」と謝ったことを明かした。
G大阪の強烈なパワープレー。そこにエネルギッシュな若手が絡む。鬼木監督は優勝から逆算し、90分で勝つための最善の策を考えていく。一方、“最悪の場合”のプランも描く。
すでに川崎は交代機会(HT+3回)を使い切っていたが、万が一、1-1になって延長に突入した場合、もう1回、選手交代する機会が増える。そこで中村を切り札で使うことを考えていた。
「憲剛の最後のゲームだったので使ってあげたかった。憲剛はチームの勝利が優先だからという話をしてくれました。プランとしては、あのまま勝ち切ること、もしくは後半途中で憲剛を入れる選択肢もありました。また今日のゲームだと、もしも延長になった場合、スタジアムの雰囲気を変えられるのは誰か? とも考えていました。そこは憲剛でした。もしも、そういう状況になっても、新たなパワーを生み出せるのは憲剛だろうと、そういう決断をしたことは伝えました。自分の頭の中も分かる選手なので理解はしてくれて、本人とも話をしました」
追いつかれた場合、G大阪に流れが傾いていることになる。その状況を一変できる。それが中村だ。鬼木監督はそこまで先を読んでいた。
中村は試合後、こう言った。
「ホッとしました。優勝できたこと、2冠をとれたこと。そこはクラブの悲願でした。個人的な感情は抜きにしないといけない戦い。最後はみんな守ってくれと思っていました。1-0で終わった瞬間、ホッとしました。泣く気はなかったけれど、みんなボロボロ泣いていて、もらっちゃいました」
幻の交代カード――。しかし、それもまた優勝への欠かせぬピースだった。それを中村は理解していた。
「心から嬉しかったです。こんな幸せなサッカー選手はいないと思います。みんなに感謝です」
最後の試合でクラブ史上初の天皇杯制覇と2冠を達成。プロ生活18年、中村憲剛は川崎の伝説となってスパイクを脱ぐ。
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[文:サカノワ編集グループ]