×

【日本女子代表】進化する田中美南、勝利に徹するストライカーとしてW杯へ「ゴールだけではないところを評価してもらえたらって」

INAC神戸の田中美南。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

競争激しいアタッカー陣の中で選出、「そりゃ欲しいですよ、ゴールは」。

 オーストラリア&ニュージーランド共催のFIFA女子ワールドカップ(W杯)に臨むサッカー日本女子代表(なでしこジャパン)にINAC神戸レオネッサのエースストライカー田中美南が選出された。2022-23シーズンの得点数は11。得点女王ランキングは、1位の植木理子(日テレ・東京ベレーザ/14得点)に3ゴール及ばず、田中は3位タイだった。

 田中がWEリーグで、悔しさを露にしたのが5月14日に行われた三菱重工浦和レッズレディースとの一戦だ。1位浦和・2位INACの直接対決で、勝てば逆転優勝へ望みをつなげられた。そこで田中は一時同点とするゴールを決めたものの、1-2で落とした。

「今日は大一番。『負け』という結果がどういう意味か、みんな分かっていると思います」

 そして浦和の優勝が決まったあと6月4日に行われた最終節前の21節ジェフユナイテッド市原・千葉レディース戦(〇1-0)、2位を確定させるため田中は“勝利”に徹するプレーで貢献した。個人タイトル(得点女王)よりも、貪欲に勝点3を狙った。

 試合開始後はいつものように前線でチャンスをうかがっていた田中だが、少しずつそのポジションを下げる。ボールを保持するものの、対する千葉のチェックはスピードがあったためだ。加えて千葉は5バックを採用し、ゴール前を固めていた。

 その選手を引き出すなど陣形を揺さぶるため、田中はほぼ自陣の最終ライン手前まで下がっていた。そして左サイドで2対1の数的優位を作って相手を混乱させる。

 そしてボールを落ち着かせると、逆サイドでフリーになった土光真代に展開。さらに守屋都弥が右サイドの大外を駆け上がってクロスを放つ。これを成宮唯が合わせて決勝ゴールを奪ってみせた。

 不在の三宅史織に代わりキャプテンマークを巻いた田中は「内容よりも勝つことが大事な試合。笑顔で帰ろう!」とチームメイトに言葉をかけていたそうだ。

 ただ田中自身は、得点ランキングで1位を狙える立場でもあった。が、そのようなエゴは一切見せなかった。

「そりゃ欲しいですよ、ゴールは。でも勝つことを考えたら、自分があそこまで下りたからこそ決定機を作ることができました。1点勝負の展開で、一か八かでゴールを獲りに行くよりも……。行こうともしたんですけれど、相手(のプレスからのカウンター狙い)を考えると競り合いに負けて抜かれたら失点しかねない。ゴールよりも1点を決めて、守り抜く必要がありました」

 田中は安堵と複雑な感情が混ざったような表情を浮かべていた。

「前を向いた時にゴールが遠いのたのは、なでしこジャパンでもよくあるシチュエーション。自分がポジションを落とすことで、それまでと異なるチャンスの形を作れて、それが勝利につながりました。それは自分の良さでもあります。ゴールだけではないところを評価してもらたえらって思います(笑)」

 そして競争の激しかったアタッカー陣のなか、田中はW杯の日本代表に選出された。なでしこジャパンの4月シリーズのポルトガル戦では、長谷川唯との阿吽の呼吸からゴールも決めている。チームのために闘い、そしてゴールも狙える。進化を遂げる29歳のアタッカーが、W杯の舞台に立つ。険しい道のりだが、少なからず手応えを得て挑む。その視線の先にあるのは頂点――世界一だ。

Posted by 早草紀子

Ads

Ads