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【なでしこジャパン】熊谷紗希が語った苦しい胸の内「せっかくのテレビ放送」「チャンスだと思っていた選手もいて…」。パリ五輪予選ウズベク戦での75分間パス回し

日本女子代表キャプテンの熊谷紗希。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

池田太監督からの言葉とは?「悔しいその想いを持ちながら話してくれました」

 バックスタンドにいた観客は試合終了の時点ではまばらになっていた。パリオリンピックアジア2次予選の第2戦、日本女子代表(なでしこジャパン)はウズベキスタン女子代表に2-0の勝利を収め、勝点6に伸ばした。

 10分にCKから南萌華(ASローマ)がヘディングで鮮やかにゴールを奪うと、5分後には遠藤純(エンジェル・シティFC)のスルーパスを受けた千葉玲海菜(ジェフユナイテッド市原・千葉レディース)が決めて追加点を奪う。

 ここで、選手たちはピッチ上で円陣を作った。その後の戦い方を確認するためだ。

 この円陣を境に、日本は失点しないようにゲームを進めた。試合終了まで、再びシュートを放つことはなかった。この戦い方に賛否があるのは承知の上での判断で、この奇妙な状況を生んだ理由は、不可解なレギュレーションにあった。

 2次予選は3グループの首位と、全体の2位で最も成績の良かったチームが3次予選(最終予選)に勝ち上がる。しかも最終予選は総当たりではなく、2チームのホーム&アウェーのこの対戦のみで決まる。つまりはどこと対戦するかが重要になる。

 パリ・オリンピックのアジアの出場枠は「2」。池田太監督は試合後に「どこと対戦するか」ではなく、「3次予選の第2戦をホームで戦えること」、「暑熱対策を必要としないこと」を考慮しての戦術だったと明かした。

 3次予選は来年2月の24日と28日に組まれている。中3日でホーム&アウェーで戦うタイトな日程で、あらゆる可能性を想定した上での判断だった。

 2012年ロンドン・オリンピックでは当時の佐々木則夫監督が、決勝トーナメント進出の際の移動時間を考慮し、控えメンバー主体で戦ったことで賛否の声が上がった。2018年女子アジアカップのオーストラリア戦では、終盤にグループ2位通過で良しとした高倉麻子監督が終了間際に“パス回し”で時計を進め、同様の意見が上がった。いずれもレギュレーションがもたらしたもので、今回もそこに起因する。

 上記二つの試合も経験している熊谷紗希(ASローマ)は、この“75分間”の苦しい胸の内を語った。

「パリ・オリンピックに行くための一つの戦い方で、選手たちはチームのためにできることをやったに尽きます。ただ、せっかくのテレビ放送があるなかで、魅せられる試合ではなかったことは自覚しています。ここがチャンスだと思って戦っていた選手もいて……経験ある自分ですら、フラストレーションの溜まる試合でした」

 2位通過を狙うウズベキスタンにとっては大量失点を避けるためにも、ボールを奪いに行く必要がない。2点リードの日本はリスクを冒す必要がない。両者の利害が一致したものの、ピッチに立つ両選手たちにはキツイ試合になった。ウズベキスタンの本田美登里監督は「こういう戦いの意味をハーフタイムに選手たちに話して、彼女たちも理解していた」と話す。それぞれが厳しいオリンピック出場権獲得のために選択した“戦い方”だった。

 それでも選手たちがこのタスクを全うできたのは、池田監督の言葉があったからだという。キャプテンの熊谷は明かす。

「こういう戦い方をさせていることをすまないと思う、(批判が起きたら)責任は俺が負うと言って、悔しいその想いを持ちながら話してくれました」

 日本はリオデジャネイロ五輪のアジア予選で敗れている。前回銀メダリストという過去の実績は関係ない。その切符を掴む難しさを痛感している。

 もちろん、後味の悪いものとなってしまったことは否めない。ウズベキスタン女子代表は先のアジア大会で初出場ながらベスト4まで勝ち上がった。約2年間、本田監督のもとで成長し、この予選が国内の女子サッカーの認知度をさらに上げる絶好の機会と捉えていた。そのために動員もかけ、国内最高とされるスタジアムで試合が組まれていた。

 この責任を熊谷はしっかり五輪の舞台で果たしたいと考える。

「ロンドン・オリンピックの時、あの戦い方があったから銀メダルを獲れたと思います。今回もパリに行くための一戦で、これも一つの経験だと思って、悲観的にならず次につなげたい。パリ・オリンピックの出場権を得られれば、応援してもらえる場も増えます。ベトナム戦は点を取りたくて、攻撃したくて飢えてる選手ばかりなので、その想いが爆発すると思います」

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 オリンピックに出場する厳しいレギュレーションを乗り越えるため、その確率を少しでも上げるための決断だった。11月1日の最終ベトナム戦、なでしこジャパンは、今回の試合の分までゴールに向かってくれるはずだ。

Posted by 早草紀子

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