関根貴大がドイツで踏み出した小さく、大きな一歩。「どん底」に叩き落とされた日
昨年10月のDFBカップで、移籍後公式戦初先発したインゴルシュタット時代のの関根貴大。(C)SAKANOWA
「特別な日だった」隣町同士のダービーで、公式戦初スタメンを果たす。
少し遡る。インゴルシュタットの関根貴大が昨年10月、ドイツで公式戦初スタメンを果たした一戦の話だ。2018年、関根がドイツの地でコンスタントに、思い切ってドリブルで仕掛けていく姿を見せてくれることを信じて、「あの日」のレポートを書こうと思う。
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関根は昨年10月25日、アウェーでのDFBカップ2回戦・グロイターフュルト対インゴルシュタット戦で移籍後初めて公式戦スタメン出場を果たした。ドイツでも、日本でも、ほとんど注目されなかった一戦。ただ関根にとっては「自分にとって特別な日だった。ここから新たにという思いで臨んだ」と、これまでにない強い覚悟を持ってピッチに立った。
試合前のウォームアップから、その気持ちは伝わってきた。ワンタッチごとに気持ちを込めるようにパスやシュートを放つ。そんな気持ちを察したチームメイトやスタッフからも肩を叩かれ激励を受ける。最後までピッチに残って、ボールと芝生の感触を念入りに確かめていた。
ブンデスリーガ2部同士の対戦だが、いずれも上昇のきっかけを掴もうとしていた時期だった。グロイターフュルトは身体が大きいファイタータイプの選手を揃えて肉弾戦を挑む好戦的なチーム。プロフィールでは身長167センチという関根にとって、そういった大柄な相手に伍して戦える、攻撃に変化をつけられるところを見せたかった。
キックオフは午後8時45分。スタジアムはドイツ南部バイエルン州の小さな町のフュルト中央駅からバスでなければたどり着けない。試合会場から一歩外れると、誰も歩いてすらいない。
まるでそこだけ隔離された別世界のようにスタジアムから光が溢れていた。車で1時間30分ほどのインゴルシュタットの町から、バスツアーで多くのサポーターも駆けつけていた。規模の大小はあれ、彼らにとっては負けられない隣町同士が対戦する「ダービー」の雰囲気だった。
夜が深まるにつれて気温は低くなるが、そこまで寒さは感じない。観る側もエキサイトしているのだろう。冬の訪れを感じるけれど、体の奥は夏のように火照り――。火曜日の夜、4,925人が見守るなか、試合が開始された。
関根は4-3-3の右ウイングで先発する。インゴルシュタットは攻撃に転じた際、前線にボールを当てて人数をかけて攻め込むスタイルを採用していた。
「前の3枚は『あまり開きすぎるな』という指示で、そのなかでタイミングを見て、自分の良さである前を向いて仕掛けるところを出していこうと思った」
関根はその日の狙いを説明していた。