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川崎魔法の8タッチゴールを中村憲剛が種明かし「FC東京DFの動きを含め全部思い通りだった」

川崎フロンターレの中村憲剛。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA

Jリーグ初の上空から捉えた動画で話題、GK→FWまでつないで決めた芸術的15秒。

 11月24日に味の素スタジアムで行なわれたJ1・33節のFC東京戦対川崎フロンターレ戦(川崎が2-0勝利)。川崎の長谷川竜也が50分に決めたチームの2点目は、DAZNがスタジアム上空からのスパイダーカムによって撮影した、GKチョン・ソンリョンからFW長谷川竜也まで8人がほぼダイレクトプレーでつなぐシーンをユーチューブの「Jリーグ公式チャンネル」で発信し、大きな話題を呼んでいる。

 味方、敵、オンザボール、オフザボール……。全体の動きを捉えていて、そのボールの軌道は芸術的とも言えるほど美しい。

 その「15秒間8タッチ」のゴールについて、中村憲剛が11月29日の練習後、より詳しく解説をしてくれた。ピッチ上ではどのような駆け引きがあり、どのような修正があり、そしてキーポイントとなったエウシーニョへの絶妙なスルーパスにはどのような”意図”が込められていたのか。話を聞く側は、とにかく感心させられっぱなしだった。

   Jリーグ公式チャンネルの映像はこちら。30秒過ぎからスパイダーカムが捉えたシーンになっている。

 それでは、中村憲剛が魔法のゴールの種を明かす。

▼「ちょうだい!」とアキに言ったが、逆を向いた。そこで、俺のスペースが生まれた。

 まず (GKチョン・ソンリョンからのパスを)守田がフリックして、アキ(家長昭博)がボールを持った。そのすぐ左にいた俺はアキに「(パスを)ちょうだい!」と言ったけれど、アキは逆向きにターンして、右SBのエウソン(エウシーニョ)のほうへ行って展開しました。

家長昭博。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA

 ただ、そのプレーによって相手がすっと下がり、中盤真ん中にいた自分のスペースが空きました。エウソンからダイレクトでストンと俺はパスを受け、すぐ前を見ました。その瞬間、走っていた(長谷川)竜也か知念にパスを出す選択肢も浮かびました。一方、エウソンが右サイドの縦のコースを、フリーランでぶっち切ろうとしていた。

 実際、そのエウソンの走り込んだ先には、ずっと「使いたいな」と思っていた広いスペースがありました。

▼森重とチャン・ヒョンスのクロスする動きを“コントロール”していた。

 ただし、とにかく急いで右サイドへボールを出していたら、エウソンは間に合っていませんでした。

 相手の中央には確か、森重選手、チャン・ヒョンス選手、高萩選手の3人がいました。

 俺がひとつ顔を上げてチラッと(ファーサイドにいた)竜也を見たことで、森重選手が少し中へ寄ったんです。そのすぐあと、今後は俺の体の向きを見たチャン・ヒョンス選手が「エウソンのほうへパスを出すな」と判断し、すぐ右サイドのカバーに入りました。

 そこで俺は絵が浮かびました。しっかりエウソンにパス(右サイドのゴールライン付近への深い位置)を通せば、センターバックがクロス(交差)して入れ替わらざるをえない状況を作れます(川崎から見て、右のCB森重が中央へ、左のCBチャン・ヒョンスが右に流れる)。森重選手が一瞬、俺からエウソンに出すパスに食いついたことで、真ん中を走る知念が絶対にフリーになれるとも察知しました。さらに知念がフリーになれれば、逆サイドから絞る竜也もおそらくノーマークで入り込める、と。そこまで見えていました。

▼「左足」のパスを選んだ理由。

 そのエウソンへのパス。右足で出すとエウソンから遠ざかるような回転がかかってしまう。左足だったら、ボールが少し右サイドのほうへ向かって行くので、エウソンは面で捉えてダイレクトでクロスを蹴れる。少しの回転の関係ですが、これは左で蹴ったほうがいいなと考えました。地味なパスではありますが、スピードを落とさず、かつ味方と相手DFを含めて、選手と時間をコントロールした1本でした。

 もう少しエウソンの手前にパスを出す選択肢もありましたが、そしたらDFは交差していなかったでしょう。森重選手がそのままの位置で対応し、チャン・ヒョンス選手も中央で構えていたはずです。それだと知念がフリーにならない。それを動かすために、少し長めのパスを出しました。

 少しでもボールへ食いつかせるために、わざと森重選手の近くを通しましたから。まあ……まんまと食いついてくれましたね。俺の構図通りです。

(右サイドを思い切って駆け上がった)エウソンも俺を信じてくれていたからこそ。信頼関係です。相手が「ここにパスは出ないだろう」と思うところへ、エウソンは俺からパスが来ると信じて走ってくれる。だからこそ、相手もなかなか対応できないのでしょう。

 知念がフィニッシュを決めていても良かったけれど、逆サイドから竜也が諦めず最後まで詰めているはずだとも信じていましたから。「頑張っているやつには必ずボールが転がってくる」と、竜也には言ってきましたが、しっかり決めてくれました。

 だから、あのFC東京戦の2点目は会心です。結果的に、あの光景は、DFの動きを含めて全部、俺の思い通りでした。

エウシーニョ。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA

 ※川崎フロンターレは12月1日、等々力陸上競技場で今季リーグ最終戦、ジュビロ磐田戦を行います。

取材・構成:塚越始
text by Hajime TSUKAKOSHI

Posted by 塚越始

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