×

【提言】浦和レッズは一つの産業。「社長」と「CEO」を分離すべき

広島に0-4大敗……。肩を落とす浦和の選手たち。写真:上岸卓史/(C)Takashi UEGISHI

お蔵入りした2016年インタビュー。的中した”ミスターレッズ”福田正博さんの予言。

「ミシャさんのあとだね。

 本当に浦和レッズが変われたのか。それが問われるのは」

 2016年の初冬、浦和レッズのJリーグ優勝記念用の特別本を作成した際、浦和OBである福田正博さんの取材をした。福田さんはミハイロ・ペトロヴィッチ監督(愛称ミシャ、現・北海道コンサドーレ札幌監督)の過去最長の長期政権は、浦和の歴史にとって前向きなことで、やっとプロクラブらしくなってきたと言っていた。

 しかし、ある意味、監督に丸投げの体質は変わっていない……。いや、そこもフロントと監督で、良い関係を構築できつつあるかもしれない。そんな話もしていた。

「クラブとしての方向性をしっかり示せるかどうか。それが分かるのはミシャさんがいなくなったあと。もちろん、それはずっと先のことかもしれないけれど」

ーー・ーー・ーー・--
(取材を終えて)

 福田さん でもさ、もしも浦和が勝てなかったら、この取材はどうなるの?

 私 いやいや、絶対に勝ちますって、今度こそ。

ーー・--・--・--

 案の定、浦和はチャンピオンシップで鹿島アントラーズに敗れて、リーグ優勝を逃した。

 そのため、このインタビューはお蔵入り。その内容が収録された雑誌など2冊が発売されなかった。いつか少し話を聞き直して流用できるかもしれない、と思っていたが、その機会も訪れなかった。

 2017年途中、ミシャが解任された。

ミシャ時代からの「発展」ではなく「否定」を選択した結果…。写真:上岸卓史/(C)Takashi UEGISHI

形骸化する「Jリーグで実績ある監督」というガラパゴスな指標。

 成績低迷を理由に、ミシャが浦和を去った。

”ミスターレッズ”福田さんの不安はモノの見事に的中することになる。

 それでも、2017年に堀孝史監督のもとでアジアチャンピオンズリーグ(ACL)、2018年にオズワルド・オリヴェイラ監督のもとで天皇杯で優勝を果たした。ただ、その栄光の影で、ミシャ時代に培ってきたスタイルは研磨されるどころか、蓄えを消費していく形になった。

 スタイル的に言えば、ミシャ時代の3-4-2-1とオリヴェイラが鹿島で実績を残した4-4-2は、水と火、太陽と月のように、どちらがどうというわけではなく対照的だ。当時招聘した現在の立花洋一社長(当時:副社長=強化責任者)、中村修三ゼネラルマネジャー(GM)は、そのリスクの大きさをどのように考えていたのだろうか。

「Jリーグで実績のある監督を呼ぶ」 

 浦和のみならず、Jリーグで形骸化する指標の一つだ。

 ブラジル人指揮官の招へい。つまり、完全なるミシャスタイル(ミシャ―堀ライン)の否定から入った。

 今となれば……浦和が歩んできていたハンス・オフト以降の「ヨーロッパ・ドイツ路線」で考えてみよう。ミシャ式に似たスタイルを採用する監督として、ドイツ人のユリアン・ナーゲルスマンが挙げられる。今季までホッフェンハイムを率いてチームを上位に引き上げ、来季RBライプチヒを指揮することになった。

 彼は後方からしっかりとビルドアップし、センターフォワードとシャドーの飛び出しを生かす、まさにミシャのようなスタイルを取り入れ、しかも3バックと4バックを使い分ける。そんなナーゲルスマンであり、戦術家と呼ばれるトーマス・トゥヘルの”師匠”がバイエルンを率いたこともあるジョゼップ・グアルディオラだった。

 彼らを招聘するのは無理だとしても、そういった「ミシャ発展型」に取り組む指導者を呼ぶのも自然な流れだったのではないか。

 もちろんあくまでも一つの例だ。ただ、浦和も世界のスタンダードの中で戦っているのにもかかわらず、監督選定の基準が岡田武氏、西野朗氏に断られてミシャに行き着いた2012年から「Jリーグで実績がある人材」という指標が変わらずにいる。現在の浦和のフロント体制では、いずれ今回のように限界点を迎えていたことだろう。

 とはいえ、オリヴェイラ監督への期待はあった。

5か月前…オリヴェイラ監督のもと、浦和は天皇杯制覇を成し遂げた。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA

 浦和の中心選手は30代に突入し、チームは明らかに過渡期を迎えている。新たな価値観を創出するには、大転換ともいえるオリヴェイラ監督の投入も有効に思えた。

 浦和がここ数年欠いてきた「勝利」への執着を全面に押し出したのも好印象を抱かせた。アジアチャンピオンズリーグ(ACL)の出場権を獲得するため、天皇杯を全力で獲りに行った。あの”浦和の一体感”は本当に久々だった。

 一方、ミシャのように戦術を固めず、自由にプレーさせることで「個」の力も発揮される――というイメージも抱かせた。が、それには本気で4バックへ転換するぐらいの覚悟が求められた。

 昨季までの浦和がゴールを決める時、柏木、武藤、興梠……鮮やかな連係がハマるのは、明らかにミシャ時代に培った感覚によるものだった。

 すると今季、そういったコンビネーションをも打ち消し、カウンター狙いの戦術が採用された。過去との完全なる決別。それでいて、青木、武藤の復帰を待つなど矛盾も生じる。結局、新戦力も、若手も使われず、使われても噛み合わない。悪循環と言うか、ある意味、スタイル(約束事)を失ったことで、必然のように組織として機能しなくなっていった。

 今シーズンは、4バックを意識した補強もしてきた。もはや思い切った選手の入れ替えに踏み切ってもいいのではないか。その予兆が、12節の湘南ベルマーレ戦(●2-3)あたりから漂い出していた。今週末、6月1日の14節・川崎フロンターレ戦でもスタメンの大幅な入れ替えがあるのではないか――。そんななかでの解任劇だった。

 終わってみれば、当然といえる結末に辿り着いた。

 しかもスクラップ&ビルドの「スクラップ」がいまだに続いていると言える。前からプレスをかけるのか、後ろでブロックを固めるのか。そんな、パンかご飯か、というぐらい朝飯前の議論が繰り返されたままだ。

「社長」はトップチームに介入すべきではない。例えばドルトムントのように――浦和から組織改革を。

 問題は明らかだ。浦和のフロント、トップの体制にある。

 スクラップ&ビルドの繰り返し。監督を代えて、補強をして、期待を抱かせる。そうやってお茶を濁してきた。ただ、クラブを信じてきたコアなサポーターも、今回ばかりは業を煮やしている。クラブの小手先の「改革」に、もはや騙されはしない。

 少し建設的に考えてみたい。

 まず浦和の2018年の営業収入は79億4000万円と、2007年に次ぐ額を記録した。60億円の大台をコンスタントに超えてきている。額としては企業レベルでは決して上位ではないものの、地域との密接なつながりや関わり合いを考えると、もはや一つの産業といえるぐらい大きくなった。

 浦和レッズレディース、下部組織、レッズランド……。浦和レッズはトップチームがあくまで中心だが、そこだけがすべてではない。「社長」の役割は、もっと明確にすべきだ。つまり「社長」と、「トップチームの最高責任者(CEO)」は分離すべきではないだろうか。

 バイエルン・ミュンヘンやボルシア・ドルトムントなどドイツの多くのクラブでも見られる体系だ。

ドルトムントなどドイツのクラブの体制も参考になるのでは。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA

 ドルトムントはラインハルト・ラウバル氏が社長を務める。ただし、トップチームのCEO(最高責任者)はハンス・ヨアヒム・ヴァツケ氏で、選手補強など強化を司るのがミヒャエル・ツォルクスポーツダイレクター(SD)だ。

 例えば2017-18シーズン途中、ドルトムントは成績低迷を理由に、ペーター・ボス監督の解任に踏み切っている。すると後任に、なんとケルンを最下位に沈めて解任されたばかりのペーター・シュテーガー氏を約半年間の契約で監督に招いたのだ。

 多くの人が耳を疑い、本人が記者会見を行うなど、冗談か、嘘かと思われたほどだ。

 しかし強化部門のあらゆる情報をツォルク氏が吸収し、ヴァツケCEOに許可を得て、間もなくシュテーガー監督にオファーを出したという(旅行先に電話連絡した)。つまり最終的には、二人で監督を決めたのだ。

 チームの不足を分析し、それを引き出せる人材として、シュテーガー監督に白羽の矢を立てた。

 するとシュテーガー監督は香川真司をトップ下に据えるなど、後傾になっていた攻撃面の問題点を改善。ノルマであるチャンピオンズリーグの出場権獲得のミッションを成し遂げた。クラブはその間に後任人事の選定も進め、現在のリュシアン・ファーブル氏を招聘した。

 もちろん、すべてが正しいとは言えないし、そういった体制の弊害もあるに違いない。

 それに日本式の出向の社長体制を否定はしない。とはいえ、浦和の場合、立花社長は「売上100億円」を目標に掲げるが、それとトップチームがタイトルを目指すのは、また別の話でありるはずだ。

 現在の体制では、「社長」のもと、浦和レッズが「100億円」も「優勝」も狙うことになっている。ただ極論からすれば、優勝できなくても、クラブとして100億円を目指すのが「社長」の仕事であるべきだ(きっと狙えるはず)。

 本来「会社」と「トップチーム」は別々の目標に向けて取り組むべきだ。

 美辞麗句ではなく、本気でトップチームが「世界」を目指すのであれば、浦和こそ、Jリーグの中で率先して組織改革に踏み出していくべきだ。

 つまり、経営面とトップチームの競技面の責任者は分けるべき。結局、監督を決める時に、「Jリーグで実績のある人」の選定に落ち着くのは、(多くのJクラブでもそうだが)普段はサッカーに関心のない取締役などに説明がしやすく、ネームバリューが優先される傾向にあるためだ。

 一つ踏み込み具体案を示したい。

 例えば、浦和であれば、福田正博さんのようなクラブを代表する人材をトップチームのCEOに据えるぐらい、思い切った人選をしても良い気がする(福田さんのプロパーでも何でもないです)。いずれは大槻監督でもいいか。

 そんな浦和レッズを知り尽くす人材のもと、強化部長やゼネラルマネジャー、スポーツダイレクター(海外とも交渉できる人材)、強化部(できれば浦和以外の世界も知る人材)など……戦う組織作りをしてみてはどうだろうか。

 3年連続の監督解任劇……今回ばかりは、あまりに必然の帰結で、ぐうの音も出ない。大槻毅監督には、昨季以上の重圧がかかる。今日から新指揮官の下で練習が始まり――試合当日まですべて非公開練習に設定された。果たして、一体、どこから手をつけるのか。

取材・文:塚越始
text by Hajime TSUKAKOSHI

北京国安戦で先発した浦和のメンバー。写真:上岸卓史/(C)Takashi UEGISHI

Posted by 塚越始

Ads

Ads