【なでしこアジア女王への軌跡②】舞台裏で一つになった座学の時間

優勝を決めて喜ぶ熊谷(右)と鮫島 写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

ベトナム戦「4ゴール」の意味。中心選手は危機感を抱いていた。

 いかなる大会でも初戦は難しい。FIFA女子ワールドカップ・フランス大会の予選を兼ねたAFC女子アジアカップ・ヨルダン大会(4月6日~20日)で、実力国が揃うBグループに入ったなでしこジャパン(日本女子代表)はまずベトナムと対戦した。

 FIFAランクは、日本が11位、ベトナムは35位。その順位だけ見れば勝って当然と言えるかもしれないが、この日程が日本にとって悩ましかった。いずれにせよグループ突破のためには大量点が必要となったからだ。

 この試合での日本の得点数が、その後、ベトナムと対戦するライバル国のオーストラリア、韓国にとって得失点の「基準」となる。そのためなでしこジャパンは、その後の連戦を見据えたメンバー構成で臨んだ。そして、4-0の勝利を収めた。

 手応えを得ていた若手選手たちとは対照的に、阪口夢穂(ベレーザ)は「難しかった……」、岩渕真奈(INAC神戸)は「(得点数が)少ないですよね」、鮫島彩(INAC神戸)は「(準決勝進出ラインに)足りないと思う」と中心選手たちは敗戦したかのような悲壮感を漂わせていた。

 経験値の差が明確に出た初戦になった。

 4ゴールという結果により、韓国戦、オーストラリア戦と続いたライバルとの直接対決での起用法について、高倉麻子監督は頭を悩ませた。中2、3日で続く連戦、運動量が武器である日本が、主力メンバーでさえ固定して戦い抜くのは難しい。

 だからこそ“誰が出てもチーム力が落ちない”チーム作りをしてきた。

 そして実際、選手を入れ替えながら全5試合を戦い抜き、アジアの頂点に立った。対戦相手からも「日本は誰が出ても差が出ない」と評された。

 とはいえ、来年、フランスで開催される女子ワールドカップで、この戦い方が通じるかと言われると、難しいようにも感じる。むしろ、ランク的に上位なのはオーストラリア(6位)だけだったアジアレベルだからこそ、今回の起用法がハマった印象が残った。

 選手が代われば、様々な変更が求められる。スタメンが伝えられてから試合までの限られた時間のなか、修正することが求められた。

 ただ選手たちはその限られた時間を最大限に活用し、高い集中力と勤勉さで対策を練った。ベテランと若手が一つになり、時間があれば試合映像を見直し、映像を何度も行きつ戻りつしながら課題と修正案を詰めていった。

 これまでは早い段階で失点してしまうことでゲームプランが崩壊してしまうことも多々あった。そこで徹底したのが前半を折り返すまでは無失点でひたすら耐えること。ミーティングの成果が顕著に表れたのが市瀬菜々(ベガルタ仙台)だった。

 熊谷紗季(オリンピック・リヨン)と組み続け、修正を繰り返したことでこれまで見えていなかった視野も確保。「簡単にリスクは負わず、最後のところで相手をブラす」(市瀬)プレーがハマると、市瀬はさらに“奪いに行く”守備にも挑戦する。1試合ごとに逞しさを増していった。

1試合ごとに逞しさを増した市瀬菜々。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

 全試合フル出場した熊谷は「ピッチ以外にやることで、チームを固めることできるって実感できました」と振り返る。また鮫島は「まだまだ足りないと思うけど、(ピッチ外で)これだけやれば何とか形になる。今大会、初めて長い時間を一緒に過ごしたから出来た」と初めて抱く感覚に、喜びとともに安堵の表情を浮かべていた。

 国内合宿を含めると決勝までは26日間。徹底的に自分たちと、そして対戦相手と向き合った選手たちの座学を通じてチームの意志統一を図り、高倉監督が目指す“選手たち自身で考えることができるチーム”が徐々に形作られていった。

 そのピッチ外の密度の濃い時間が、アジア制覇の舞台裏にはあった。ヨルダンでの日々、なでしこたちが見せた真摯なスタンスは、世界の舞台でも活かされるはずだ。

取材・文:早草紀子
text by Noriko HAYAKUSA

Posted by 早草紀子

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