【サッカー日本代表】森保監督「世界一は近づいている」その言葉の“表と裏”。トップとの差は、むしろ開いたのではないか

北中米W杯ラウンド32、競り合う日本代表の鈴木彩艶(左)とブラジル代表のガブリエウ・マガリャンイス。写真:ロイター/アフロ

強豪に「警戒される存在」にはなった。しかし、それはトップとの差が縮まったことを意味するのだろうか。

 FIFA北中米ワールドカップ(北中米W杯)を終えたあと、日本代表の森保一監督は「世界一は近づいていると実感できた」という趣旨の言葉を繰り返してきた。

 その言葉には、確かに一つの根拠がある。

 カタールW杯のグループステージではドイツ代表、スペイン代表を撃破した。ただ、その2試合を振り返れば、森保監督自身も何度も語ってきたように、相手は日本を「勝てる相手」と見ていた部分があった。

 ドイツ戦では前半を1-0で終え、数多くの決定機を許していた。ハンジ・フリック監督が「このままで問題ない」とドイツの選手たちを送り出した後半、一方の日本はシステム変更に加え、三笘薫、堂安律、浅野拓磨、南野拓実らを投入。その大胆な采配が流れを一変させた。

 スペイン戦でも0-1で迎えたハーフタイムを境に、三笘と堂安を送り込み、一気に逆転へ持ち込んだ。

 三笘も堂安も勢いを増していて、獰猛さもあり、日本の実力が噛み合っての勝利でもあった。しかし同時に、相手の油断も勝利の一因だったことを、森保監督は決して否定してこなかった。

 だからこそ今回の北中米W杯では状況が違った。

 オランダ代表はグループステージで、ポット2に入った日本を最も警戒すべき相手と位置づけ、リードした終盤には5バックを採用し逃げ切りを図った。そこで日本は鎌田大地の土壇場のゴールで引き分けに持ち込んだ。

 ラウンド32で対戦したブラジル代表も昨年の親善試合で敗れた経験があり、日本を軽視することはなかった。勝利が決まった瞬間の歓喜からも、日本を簡単な相手とは見ていなかったことが伝わってきた。

 そういった意味で、日本は強豪国から「警戒される相手」になった。それが森保監督の言う、肌で感じた「世界一は近づいている」の真意なのだろう。

 しかし、それと「世界との差が縮まった」は、まったく別の話である。

 今大会は48か国制となり、開催国3か国が入ったグループは、ラウンド32まで比較的優位な組み合わせとなった。そのため、ラウンド32では強豪同士が数多く激突した。ドイツもオランダもPK戦の末、ラウンド32で姿を消した。そして日本もブラジル、あるいはモロッコ、フランスとの対戦が待っていた。くじ運が悪いというよりも、今大会はそういう構図になることが戦前からある程度予想されたことでもあった。

 オランダもブラジルも優勝候補の一角だったとはいえ、絶対的なチームではなかった。それでも日本は両国にゲームを支配された。

 オランダは4-3-3をベースにした流動的なポジショニングで主導権を握り、ブラジルはトラディショナルにボール保持から試合をコントロールした。

 日本は全員で走り、耐え、限られたチャンスに懸ける――。強豪に対し、そうした時間が続いた。

 その戦い方が、日本の持ち味であると位置づけられる。ただ、その「W杯優勝」を目指したスタイルを継続し、より成熟させるべきなのか。その問いは、今大会で改めて突き付けられた。

 ラウンド16以降は、大会のレベルがさらに一段階上がった印象だった。そして頂上へ近づくほど勾配が急になるように、技術、強度、判断速度、そして何よりゴールへの執着が際立っていった。

 日本は確かに前進している。しかし、それ以上に世界のトップ・オブ・トップは進化のスピードを速めている。結果として、その差は縮まるどころか、むしろ広がっているようにも映った。

 森保監督は「近づいている」と語る。しかし主力に故障者が多かったという事情はあっても、少なくとも今回の大会を見る限り、世界最高峰との差が縮まったとは言い切れない。

 むしろ、強豪国が日本を研究し、警戒するようになったからこそ、日本の現在地もより厳しく試されるようになった。

 国内では「日本は強くなった」という評価が定着した。確かに強くはなっている。とはいえ、UEFA欧州チャンピオンズリーグ(CL)のベスト8以上で主力として戦っていた日本人は、今回招集されなかった守田英正だけだった(バイエルンの伊藤洋輝は出場機会を得られなかった)。とりわけアタッカー陣は、ビッグクラブの中心選手にはなれずにいる。だからこそ、その差を埋めるためにも、全員で走り、耐えるサッカーを磨き続けるべきなのか。その点は改めて議論されるべきテーマだ。

 2030年W杯は64か国制になる可能性も取り沙汰されている。開催国はスペイン、ポルトガル、モロッコで、いずれもFIFAランキングで日本を上回る。その大会を見据えるなら、日本はまずポット1入りを現実的な目標に据え、そのうえで決勝トーナメント初戦突破を目指すべきではないか。

「世界一は近づいている」

 その言葉は、強豪国から警戒される存在になったという意味では理解できる。

 ただ、世界最高峰との差まで縮まったかは、正直、分からない。5バックは“どの相手にもある程度守れる”が、再現性のある攻撃にはつなげられなかった。団結力を強調した森保ジャパンだが、北中米W杯が示した現実を、もっと直視すべきではないか。

 田中碧はミスから失点して頽れた。その肩を引っ張り、伊藤洋輝は立ち上がらせた。あの局面で自虐していたら、勝利などできないのだろう。残り1プレー、2プレーで絶対に追いついてみせると、あの時こそ、最後の執念を燃やし一丸となってブラジルゴールへ襲い掛かってほしかった。せめて、その姿勢と迫力だけは見せてもらいたかった。

 どちらが表で、どちらが裏という話ではない。それは表裏一体なのかもしれない。むしろ今、日本代表に必要なのは、世界一に近づいていると自分たちに言い聞かせることではなく、まだ足りないもの一つひとつを冷静に直視する視点なのかもしれない。

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Posted by 塚越始