【浦和】翻弄と挑戦。“ポゼッション”&“ハイプレス”で揺れる曺貴裁体制、リーグ3連敗…突破口はクロップ時代のリバプールか

天皇杯の山梨学院大学戦、浦和の選手がゴールを決めた片山瑛一を祝福する。写真:石橋俊治/(C)Toshiharu ISHIBASHI

もちろん、そんな単純は話ではないが――

 浦和レッズがリーグ3連敗を喫した。もちろん曺貴裁監督の新体制は始まったばかりで、結果だけで論じるのは早計かもしれない。とはいえ、首位のFC町田ゼルビアに敗れ、リーグ優勝が早くも厳しくなったのは紛れもない事実だ。

 フットボール本部解体後の流れを振り返ると、チームはクラブの強化方針に翻弄されてきたようにも映る。

 リカルド・ロドリゲス体制、そしてマチェイ・スコルジャ体制を経て、浦和にはボールを保持してゲームをコントロールする意識が浸透した。そのスタイルを実現するためのタレントも揃えてきた。

 しかし、勝ち切れない。ゴールを取り切れない。その結果、2023年のAFCアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)決勝で勝って以降、タイトル争いには絡めずにいる。日本代表のみならず、各国代表に名を連ねてきたタレントは流出し、戦力ダウンも続いた。

 2026年の特別大会「百年構想リーグ」で、スコルジャ監督のもと、高い位置からボールを奪い、そこから一気に仕留める攻撃を加えようとした。スコルジャ監督は堀之内聖SD(スポーツダイレクター)とも話し合いを重ね、そういったチャレンジを試みたという。

 それでも特別大会では、ボールを奪ってからシュートまで約20秒を要し、J1で浦和が最も時間をかけていたという。

 そして田中達也暫定監督を挟み、曺貴裁監督が就任した。

 曺監督が志向するのは、高い位置から激しくボールを奪いに行き、攻守の切り替えで相手を上回るスタイルだ。湘南ベルマーレ、京都サンガF.C.で貫かれてきた戦い方だ。

 つまり、曺監督が浦和で突然、「ポゼッションからハイプレスへ」と方向転換したわけではない。クラブがそうしたスタイルを貫いてきた指揮官を選んだのだ。

 実際、曺監督が強調しているのも“振り切る”こと。奪いに行くなら、全員で行く。奪ったあとに相手を仕留められるのであれば、迷わず「一矢」を放つ。中途半端にバランスを取るのではなく、まず徹底する。

 一方、浦和にはリカルド、スコルジャ両体制を経て培ってきた、ボールを持ってゲームをコントロールする技術がある。曺監督もそれを否定しているわけではなく、「ハイブリッド」という言葉を使っている。

 そこで今、振り切るのか、バランスが大切なのか、そもそも、そのどちらかで勝ち切れるのか――。そのあたりの振り幅が、やや曖昧にはなりつつあるように見える。選手やコーチに戸惑いが生まれれば、統一は図れなくなる。

 一つのヒントになるのが、曺監督が何度か例に出してきたイングランド・プレミアリーグのリバプールFCだ。

 新シーズンはアンドニ・イラオラ体制が発足したばかりで、守備のバランスを整理したうえで、改めて破壊力のあるカウンターを構築しようとしている。そうしたリバプールのスタイルを振り返った時、やはり基準になるのがユルゲン・クロップ時代ではないか。

 クロップのリバプールは、選手たちの個々の技術に裏打ちされたポゼッションを備えながら、ボールを失えば一気に襲い掛かるゲーゲンプレスが徹底された。奪い返したあと数的優位を作り、そこからショートカウンターで仕留める。秩序や一般的な常識をぶち壊す、オーケストラとは異なるとクロップも語り、それは「ヘビーメタル」「ロックンロール」と形容された。

 もちろん、そんな単純な話ではない、とも言える。ただ、いま一つモデルケースを共有できずにいるのであれば、一例にはなるかもしれない。

 無論クロップは香川真司を擁したボルシア・ドルトムント時代から、そのスタイルを徹底していた。フィルミーノ、サディオ・マネ、モハメド・サラーといったスター選手たちに「俺たちで驚かせるフットボールをやらないか」と口説き、強度とハードワーク、そして試合を支配することを両立させた。

 曺監督は自身のスタイルを浦和でも徹底しようとしている。まず一度“振り切る”ことで、チームに新たな基準を植え付けようとしている。

 ただし、そこで問われるのがチーム編成との整合性。その戦い方に適したタレントが揃っていないのではないか、という指摘はもっともだ。選手たちもまた、クラブの方針に翻弄されている一面が垣間見える。

 それでも、新たなチャレンジには前向きに取り組んでいる。金子拓郎、マテウス・サヴィオの両ウイングは強力であり、そこで相手を剥がせればたちまちチャンスになる。CFの小森飛絢、インサイドハーフの渡邊凌磨らが数的優位のまま決定機に持ち込む――というシーンも何度も作り出してきた。

 そもそもリーグ戦で上位進出を狙えるだけの戦力が揃っているのか、という根本的なテーマは残る。いい戦いはしているが勝点につながらない……という悪循環に陥ることも想定される。それでも、この戦い方を徹底した先に、これまでとは違う浦和の姿が見えてくるかもしれない。

 今はまず、天皇杯に続き、リーグ戦での初勝利をつかむしかない。クロップ時代のリバプールのように、個々の強みを生かしながら、やるべきことを徹底して振り切る。その戦い方はヒントになるかもしれない。クラブが描く方向性も、そこに近いのだろう。だからこそ共有できるビジョンはほしいところだ。ただ、いずれにせよ浦和の選手たちが一つ打ち破らなければならないのは、“秩序”ではなく、クラブに振り回されてきた“翻弄の歴史”なのかもしれない。

Posted by 塚越始