【移籍】なぜ中村敬斗のリヨン「加入決定」が発表されない? 「ジョーカー制度」のメリットと“落とし穴”

中村敬斗 写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

移籍市場が閉じてもフランス国内では「1人」獲得可能。一方、過去には交渉が土壇場で破談したケースも

 フランス2部スタッド・ランスの日本代表FW中村敬斗(Keito NAKAMURA)のオリンピック・リヨン(OL)加入を巡り、現地ではクラブ間合意が報じられながら、デッドラインデーの9月1日中には正式発表に至らなかった。その背景として考えられるのが、フランス独自の「ジョーカー(joker)」制度だ。

 フランス・プロサッカーリーグ(LFP)が設定した2026-27シーズンの夏の移籍市場は、現地9月1日19時59分に終了した。しかしフランスには、通常の移籍市場が閉じたあとでも、リーグ・アンとリーグ・ドゥのクラブが例外的に選手を獲得できる制度がある。それが「ジョーカー」だ。

 LFPの規定では、夏の登録期間が終了した翌日から冬の登録期間が始まる前日まで、各クラブは「ジョーカー」として1人に限り選手を獲得できる。対象は、フランスサッカー連盟(FFF)やLFPなどが発行した選手ライセンスを持つ選手で、実質的にフランス国内クラブからの移籍に利用される制度となっている。完全移籍だけではなく、期限付き移籍にも適用できる。

 つまり、リーグ・ドゥのスタッド・ランスに所属する中村は、この制度を利用してリーグ・アンのリヨンに加入できる条件を満たしている。

 フランス紙『レキップ』は9月1日、リヨンとランスが中村について、200万ユーロ(約3億7000万円)の有償レンタルと約1100万ユーロ(約20億円)の買取義務で合意したと報じた。中村はメディカルチェックを受けるためリヨンに到着した姿も伝えられた。一方、その取引はマリック・フォファナのプレミアリーグ移籍成立が条件になっているとも伝えられた。

 この「ジョーカー」を利用すれば、通常の移籍市場が閉じたあとでも、条件を満たすフランス国内の選手を獲得できる。条件面の細部、メディカルチェック、選手との契約などを通常のデッドライン後も詰められる。負傷者の発生や戦力不足など、シーズン開幕後に判明した問題にも対応できる。

 実際、2019年にはFCナントからオリンピック・マルセイユへのMFヴァランタン・ロンジェの移籍交渉がデッドラインを越えたものの、翌9月3日に「ジョーカー」を使って成立した。長時間に及んだ交渉を継続できた代表的な成功例だ。

 一方、各クラブ1人しか使えない。一度この枠を使えば、冬まで別のフランス国内選手をジョーカーとして獲得する選択肢を失う。そのためクラブ側は、通常の移籍以上に「この選手に貴重な1枠を使うべきか」という判断を迫られる。

 しかも、デッドラインを越えたからといって移籍成立が保証されるわけではない。

 2020年にはスタッド・レンヌのFWエムバイェ・ニアンをASサンテティエンヌがジョーカーとして獲得しようとした。通常の移籍市場では成立しなかったものの、両クラブはその後も交渉を継続。しかし『レキップ』などによると、クラブ間で話がまとまりながら、選手側の代理人を巡る問題などが発生し、サンテティエンヌは最終的に獲得を断念した。ジョーカーという“延長戦”があっても、交渉そのものが崩れることもあり得るのだ。

 なお「ジョーカー」と「ジョーカー・メディカル(joker médical)」は別の制度だ。後者は重傷者などが発生した際の特例で、適用条件が厳しく設定されている。今回の中村のケースで想定されているのは、通常の国内移籍に使われる「ジョーカー」になる。

 正式発表が遅れていることだけを理由に、中村のリヨン移籍が頓挫したとは言えない。通常の移籍市場で必要な手続きが完了している可能性に加え、フランス国内では「ジョーカー」を利用して移籍を成立させる道も残されている。

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