「仙台クソッタレ」コールに浦和の大槻監督が”ノーノーノー”とゼスチャー
仙台戦で指揮を執った浦和の大槻毅監督。写真:上岸卓史/(C)Takashi UEGISHI
相手のラフプレーに対するブーイングのあと。
[J1 18節] 浦和 1-0 仙台/2019年7月6日/埼玉スタジアム2〇〇2
浦和レッズが1点リードで迎えた77分だった。センターライン付近で交代出場した杉本健勇がボールを受けて振り向いたところ、シマオ・マテに体を入れられチャージを受ける。杉本が倒れたところで、飯田淳平主審は笛を吹いてシマオ・マテのファウルをとった。
VTRで振り返ると、確かに微妙なシーンではあった。ただ、その判定に疑問を呈したシマオ・マテは主審に詰め寄ってなぜだとアピール。そこで手が胸に当たり……飯田主審はシマオ・マテの「異議」にイエローカードを提示したのだ。
その抗議する気持ちも分かるのだが、少ししつこかったかもしれない。また、立ち上がりから仙台のファウル数が多く(この試合の通算は浦和10回、仙台18回)、加えて試合終盤に向けてヒートアップしてきていた試合に水を差す形となったこともあった(逆に言えば、シマオ・マテがその高まっていたトーンを落ち着かせた、とも捉えられる)。ゴール裏を埋めた浦和サポーターからは必然的にブーイングが起きた。
するとベンチ前で指示を出していた浦和の大槻毅監督は、ここから浦和の勢いを再びつけようと、ゴール裏に向かって”もっと大きく”と体全体でゼスチャーをした。
浦和からのブーイングの声量は一段と大きくなった。
ただ、その流れで、浦和サポーターからは「仙台、仙台、クソッタレ!」「仙台、仙台、クソッタレ!」とコールが起きた。
ところが、そのコールを聞いた大槻監督が、意外な行動を取る。
指揮官はそのままゴール裏を向いたまま少し首を捻り、自分の目の前で小さく”ノーノーノー”と指を振った。ブーイングを煽った先ほどまでは大きくないが、それはちょっと違うな、というニュアンスのゼスチャーをしたのだ。
相手あって成り立つゲームでもある。相手への尊敬もまた大切だと伝えたかったのだろう。
そして試合後の両監督への公式記者会見で、大槻監督に対し、「前半から仙台のラフプレーが多く、イエローカードが出ないことに抗議も激しかった。しかしピッチ上の選手たちは冷静に戦っていたようだが?」という質問が飛んだ。
すると指揮官は次のように答えた。
「レフェリーへのあの態度は、サッカーを観ている方に対し、本当に申し訳ない気持ちがあります。不愉快にさせてしまう部分を見せてしまい、すみませんでした。そのようなことをDDAZNのフラッシュインタビューでも言わせてもらいました。
ただ、ハーフタイムに冷たいタオルで顔を拭き冷静さを取り戻して選手に話をしようとしたところ、選手はすごく冷静にやってくれていました。選手に助けられました。有難いことです」
そのように、選手とともに”闘う”姿勢を示したが、やや行き過ぎたかもしれないと反省を口にした。一方、そこで間を置いて、大槻監督は次のように続けた。
「ただ、ただですよ、これは、どうなっていたか分かりませんが、前半にもう少し(主審が試合を)コントロールできていたならば、仙台の選手のレッドカード(51分に椎橋慧也が2枚目のイエローを受ける)はなかったのではないかと思いました。
仙台を何試合も見てきましたが、素晴らしい戦い方をしていました。僕らも今回すごく緊張して臨みました。そのなかで僕らとしては勝点3を獲れて嬉しいですが、仙台が好調だというところでサッカーを楽しみに観に来てくれた人たちにとっては、残念だったかもしれないと思いました。
仙台と対戦できることをすごく楽しみにしていたので、そこは正直に感じたところです」
大槻監督は仙台市出身で、2011年には仙台のヘッドコーチを務めたこともある。それだけに、親分としては、”もしかしたら”うまくコントロールできていたかもしれない11人対11人の90分間のガチの戦いで、浦和の強さを示したかった、というのが本音だったようだ。
そうしたなかでの「クソッタレ」コールへのゼスチャー。そんな指揮官にとっては、互いを高め合いより極上の技を見せ合ってこそ成り立つのが勝負の世界。相手を貶める”言葉”は、その流儀に反すると感じたようだ。
関連記事:浦和の歴代最多得点更新、興梠慎三が掲げた次なる目標とは?
[取材・文:塚越始]
text by Hajime TSUKAKOSHI