横浜ラストマッチ。GK飯倉大樹が「ロッカーに入ってまず号泣した」理由とは
横浜FMから神戸に移籍するGK飯倉大樹。写真:上岸卓史/(C)Takashi UEGISHI
全てを過去にする1日――。「マリノスのホペイロはパーフェクト」。
[EJ杯] 横浜FM 1–3 マンチェスター・C/2019年7月27日/日産スタジアム
「GALAXY ENTERTAINMENT EUROJAPAN CUP2019」(EJ杯) 横浜F・マリノス対マンチェスター・シティFC戦は、この試合のあとヴィッセル神戸に完全移籍する横浜FMのGK飯倉大樹にとって、下部組織からプレーしてきたマリノスでのラストマッチとなった。
試合後のサポーターへのあいさつでは、2年目、クラブから当時JFLのロッソ熊本(現ロアッソ熊本)への「片道切符」を言い渡されたが、奥大介氏に懇願して横浜FMと2年契約を結んでもらったこと。そしてレンタル移籍を終えて復帰した時、「振り返ると、技術もメンタルも、ユースの選手のほうが上だったぐらいだったと思う」と変わらず生意気な自分がいたこと、しかしそこから失敗と挫折を繰り返し、松永成立GKコーチをはじめ周囲に支えられながら這い上がってきたことなどを赤裸々に語った。
そして試合後の取材対応に出てきた飯倉は、「号泣だよ。今日は、もうずっと号泣です。泣き疲れました」と包み隠さず明かした。
「試合開始前のウォームアップの時? うん、泣いていた。でも、もうその前から、スタジアムに入ってきた時点で泣いていましたから」
そしてロッカールームに入り、最初の号泣をしたという。
「いつも使っているロッカーに、オガ(ホペイロの緒方圭介さん)が綺麗に全部準備してあるのを見て、それだけで涙が出てきちゃいました。スタジアムに入って15秒ぐらい。もう泣いていたね」
飯倉は苦笑を浮かべたあと、頷いて言った。
「マリノスのホペイロはパーフェクトだね。何も言わなくても、すべてを選手のために捧げる、そのすべてのクオリティが高い。今日でそれを受けられるのも最後だと思うと……それが当たり前のようで当たり前ではなかったんだと改めて実感しました。そこからマリノスでの日々が走馬灯のように駆け巡って、過去の苦しかったこと、嬉しかったことと楽しかったことが蘇り、涙が出てきてしまいました。あまりにロッカーが綺麗すぎて、オガに『写真に残しておいてよ』って言ったら、アイツ……俺の泣いている写真を撮ってやがるの。バカ」
翌日には神戸へ旅立つ。すべてを「過去」にする。飯倉にとって、そのスイッチを入れる、あるいはリセットするための1日となった。
「本当にいいチームでした。いや、過去形ではななくて、いいチームだよ。1週間前に戻したら、マリノスにいたいと思うのかな……。いや、でも巻き戻したらまた悩むだろうから、もういい。こんなにいいチームにいられて幸せでした」
ただ、ピッチに立った時には、戦闘モードに切り替わっていたそうだ。
「そこは泣かなかった。シティは疲れているから、いけるんじゃねえかな、と思って入ったけれど。もうちょいプレーしたかった。でも最後に15分プレーできて、こうしたプレゼントのような機会をもらえるなんて、きっとないことだから、幸せです。感謝しかありません」
横浜F・マリノスでのラストマッチ――飯倉の涙は枯れ果てた。
翌27日には神戸へ向かうそうだ。神戸と正式契約を結んだ瞬間、飯倉はもう昔話をしないだろう。新たな地で「感謝」の想いを「結果」に示すはずだ。
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[取材・文:塚越始]
text by Hajime TSUKAKOSHI
Title:Yokohama F・Marinos vs Manchester City. Why is Hiroki IIKURA crying?