【なでしこ】高倉麻子監督インタビュー。東京五輪へ「成長のため与えられた1年だと前向きに捉えて」
なでしこジャパン(日本女子代表)の高倉麻子監督。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA
「一度立ち止まりサッカーと向き合い貯められたエネルギー」を、オリンピックで――。
高倉麻子監督がなでしこジャパン(日本女子代表)の指揮官に就任し、2016年4月から4年8か月が経った。1年延期された集大成となる東京オリンピックに向け、そして秋にはWEリーグ開幕を控えるだけに、なでしこジャパンは日の丸のもと、大きな責任と期待とともに舞台に立つ。
新型コロナウィルスの影響を受けた2020年、なでしこジャパンの国際親善試合のキャンセルを含め、大きなスケジュール変更を余儀なくされた。そのなかで10月、11月に行われた候補合宿では、成長著しい新戦力も出現した。この延期された1年をどのように捉えているのか、7月の開幕まで残り半年どのように進むのか。指揮官に話を聞いた。
――ケガ人が相次いで迎えた2019年のフランス女子ワールドカップをベスト16で終え、昨年は見えた課題に徹底的に取り組みたい1年でした。しかし、コロナ禍で活動ができる状態ではありませんでした。
「ワールドカップは、周りがなでしこジャパンに抱く印象と評価、私たちの評価、選手たちの実感、それぞれ違っていたと思います。勝てなかったのは私の責任ですが、『まだまだやれる』『他の国とは違う要素で勝っていける』という思いを残したまま帰ってきてしまった悔しさはありました。
その後、国際親善試合やSheBelievesCupを経て、修正と課題を繰り返すなかで東京オリンピックの延期が決まりました。ただ若い選手が多いチームですから、この1年は、選手が成長する時間を与えてもらったと前向きに捉えています。日本にとって、アドバンテージは大きいと感じています」
――実際、2018年にU-20女子ワールドカップを制した20歳以下(U-20世代)の選手たちをはじめ、若手が急成長したように見えます。なでしこリーグでも随所に成長を感じられました。
「選手は確実にレベルアップしています。時間の経過、それにコロナ禍によってサッカーとの向き合い方が変わったこと、その両方であり、自粛期間中に選手がサッカーをできる喜びを改めて感じられたことは、大きく影響しているのではないでしょうか。私もそうでしたが、足を止めず走ってきたのを一度止めて、外向きに放出していたエネルギーを内側に向けて貯められました。そのようなサッカーと向き合う時間は、オフであってもそうはないですから」
――昨年3月のSheBelievesCup(スペイン、イングランド、アメリカに3連敗を喫した)のあと、1年の延期により、二つの道がありました。現状の選手たちを中心にチームを成熟させる道、今伸びつつある選手を入れて活性化させながら成長させる道。10月、11月のなでしこジャパン候補合宿ではフレッシュな名前が多かったです。それは後者に舵を切ったということですか?
「その両方を取ったと思っています。成熟する時間を取るのか、若手の勢いを取るのかで言えば、世界中の監督の起用を見ても若い選手へ比重を置いています。若い世代は勢いがあり、吸収力はすごくあります。でも、極端に若手を使ってばかりいる、とは思っていません。
私も長く現役を続けたのでベテランの強みは理解しています。だから例えば実績のある選手がいて、多少成績が悪くても信頼して使いたい。バサッと切る監督もいるなかで、私は割と優しいタイプのはずで(笑)。ベテランの持つパワーや経験値は積まなければ出てこないプレーです。そこを大事にしながら、若手を引っ張り上げなければいけない。
候補合宿ではシンプルになでしこリーグを見ていいなと思った選手を呼んだら、若手の力がとてもついていたと感じました。ただ、国際大会で戦えるかは未知数。男子高校生とトレーニングマッチはしていますが、対外試合でしか分からないことが多いので、そこは“国際試合”が必要です。
――国内でできることが国際試合でできるとは限らない。高倉監督が期待する世界に通用する要素とは?
「選手が演者だとしたら、自分のサッカーを演じるためにスキルアップやメンタル面を整えたりする。でも一番大事なのは相手がいるということです。相手がこう来るなら自分はこうしよう、もっと言うと“ズル賢さ”が必要です。自分の演技で精一杯だったらその駆け引きのところまで考えられない。でもサッカーに芸術点はつかないので、多くのことを見極めながらプレーできることは、世界で戦う上で大事な要素です」
――候補合宿では、ワールドカップではFWとして招集した宝田沙織選手がDFとして起用されて、そこで頭角を現わしていました。初招集の選手たちもかなり思い切りのいいプレーをしていました。ここまで“若手”とされてきた選手たちも追ってくる新戦力を目の当たりにして刺激を受けていたようですが?
「そうだと思います。新しい選手たちもサッカー能力が高くて、融通が利くタイプが多い。あと壁がないというか、緊張はあるでしょうけど、遠慮や気負いがいい意味でない。そういう世代になったんですよね……『いつ出ても、どういう使われ方をしても私やります!』っていう感覚があるんです。実にサッカー選手っぽいです」
――2011年になでしこジャパンがワールドカップを獲って10年が経ちます。選手も見る側も世代が変わりました。東京オリンピックではどのような「なでしこジャパン」を見せたいですか?
「勝つチームであることは大前提としてありますが、機械のように動くチームではなく、個性を感じてもらえるチームでありたいです。選手によって戦術が変わることもありますし、見てる人も『この選手が入ったら変わるぞ!』みたいな高揚感が持てて、奇天烈なプレーがたくさん出て目が離せないと思ってもらえるチームにしたいです」
――コロナ禍は続き、分かってきたこと、まだ分からないこともあり、そうしたなか東京オリンピックが開催されれば、なでしこジャパンの真骨頂を見せてもらいたいです。
「(昨年は)プラスの成長がたくさんあって、マイナスを相殺するほどに選手たちのパワーを感じる1年でした。2021年は思い切りやってほしい。こちらがお尻を叩くのではなく、ちょっと待て! とブレーキをかける位になってくれると嬉しいです。ちょっとそういう兆しもあるので、東京オリンピックは本当に楽しみです!」
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[取材・文・写真:早草紀子]