宇津木瑠美が持つ”二つの顔”。泥臭さと華麗さで、アジア制覇へ導く
日本女子代表に選ばれて14年目を迎える宇津木。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA
なでしこジャパンが今夜豪州と決勝。彼女が「速さ」をテーマに取り組む理由とは?
[AFC女子アジアカップ 決勝] 日本 – オーストラリア/2018年4月21日午前2時(日本時間)/アンマン(ヨルダン)
「速く!」
宇津木瑠美(シアトル・レイン)の声がピッチに響く。
攻めも守りも、宇津木は”速さ”を今大会のテーマに掲げてきた。球離れに始まり、パススピード、ファーストタッチとそこからのプレーの選択、シュート、カウンターに対する切り替え、相手への寄せ、行くくか引くかの判断……まさにすべてだ。
スピードが武器というわけではない。だからこそ、そこにこだわってプレーしていると言う。
10代だった2005年から日本代表入りして、「なでしこのDNA」を引き継いできた。名門の日テレ・ベレーザを飛び出して、フランス、アメリカと異国のリーグで体得してきた経験を、急成長中のチームに惜しみなく注ぎ込み、同時に29歳になってもまだ新たなチャレンジをしている。
来年のFIFA女子ワールドカップ・フランス大会の出場権を獲得したグループリーグ最終戦のオーストラリア戦(スコアは1-1)以降、ボランチとして粘り強い守備で、相手の起点となる選手を潰してきた。
「とにかく泥臭く」
宇津木はさらっとそのようにも言う。
確かに泥臭く粘りのある守備が最大の強みであり、チームを支え、相手にとって嫌な存在となってきた。
ただ宇津木のプレーの余韻には、優美さがある。
泥臭さと華麗さ――両極の魅力を持ち合わせる稀有な存在でもある。
加えてやはりコミュニケーションをとるうえで中心的な存在でもある。オーストラリアとの決戦直前、宇津木はこんなことを言っていた。
「ピッチで共有できることが増えてきました。(GSの)オーストラリア戦のあと、もっとサイドを使えれば良かったと意見が出て、ではいつどこでやるかという話になりました」
すると準決勝の中国戦(スコアは3-1)、「サイドで『起点になる』感覚を全員で共有できました。これを決勝で生かせれば――」と、チームとして手応えを得られた。
中国戦から中2日で臨むオーストラリアとの決勝、先発が誰になるのかは分からない。成長と結果を求める高倉麻子監督のもと、どのような形であっても、宇津木の力が必要とされるのは確かだ。
宇津木はどんな状況でも、その声とプレーでチームを勝利に導こうとしてくれる。泥臭さと華麗さ。宇津木のDNAはこの大会を通じても、次世代へ受け継がれている。同時に彼女もまだまだタフに進化を遂げている。逞しく、そして美しさも増したなでしこジャパンが、チーム一丸となって、アジア制覇に挑む。
取材・文:早草紀子
text by Noriko HAYAKUSA