【なでしこJ】世界上位といかに渡り合う?有吉佐織ボランチ起用の背景
アメリカ戦でボランチとしてプレーした有吉佐織。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA
鮫島彩のCB起用とも共通する指揮官の狙い。
本来サイドバックを主戦場としてきたなでしこジャパン(日本女子代表)の有吉佐織(日テレ・ベレーザ)が4月27日(現地26日)のアメリカ女子代表戦で、ボランチとして86分に隅田凜(日テレ・ベレーザ)と交代するまでプレーした。
「前向きにチャレンジもできましたが、まだまだ。ボランチとしての守備がそこまでできず、自分のところでピンチも作ってしまった。本当にいっぱいいっぱいだったので、そこは反省点」
有吉はそのように振り返った。彼女の高い技術と粘り強い守備の対応、そして周りの状況を俯瞰できる広い視野を生かし、日本が主導権を握る時間も作った。それでも、FIFAランキング1位の女王との力の差を痛感したのもまた事実だった。
ボランチ起用の理由について高倉麻子監督は「総合的に考えて、日本らしくボールを回すうえで、有吉の良さをボランチで生かせないかという計算があり、以前からやってみたかった」と語る。海外のトップレベルと対戦する場合、スピードを武器にするサイドアタッカーが配置されることが多い。そこにはスピードや体力面で渡り合えるタレントを対峙させ、有吉には中央でその能力をチームに還元させようという意図だ。鮫島彩のセンターバック起用と共通する意図が伺える。
加えて世界最強チームに真っ向から挑んだことで、有吉のプレーのイメージはまた広がった。なでしこジャパンのために、何ができるのか。それがより明確になったのはプラス材料に挙げられる。
「引っ張っていかないといけなかった。パフォーマンスが良くなくても、そこは絶対にやろうと思っていたのですが。自分が打開していくというより、周りとの距離間を大事にしながらシンプルにやっていこうと思っていました。一体感をもって、みんなで行こうという雰囲気を作りたかった」
前線の若きタレントには積極的かつ奔放にプレーしてもらい、有吉がチームに落ち着きや安定をもたらす。そんな指揮官の狙いが伝わってくる。高倉監督は「(ボランチ起用について)有吉本人がどう思ったのかこのあと話してみますが、チャレンジを続けてほしい」と語っており、二人がどんな話をしたのかは興味深いところだ。
なでしこジャパンがいかにして世界トップと渡り合い、来年のワールドカップ制覇を本気で目指すのか――。そこから逆算したチーム作りが、本格的に始まった。
文:サカノワ編集グループ