【鹿島】知念慶、ボランチで勝利に貢献「普通に嬉しい。意外とやれているのかな、と」
ボランチで先発し、FWでもプレーした鹿島の知念慶。写真:松村唯愛/(C)Yua MATSUMURA
ポポヴィッチ監督から、パスやトラップの基本技術、体の芯の強さなど評価され、水戸戦で先発。FWとの「二刀流」にチャレンジ!
振り返った時、ケガの功名だと位置づけられるかもしれない。
ランコ・ポポヴィッチ監督が就任した鹿島アントラーズが1月27日、初のトレーニングマッチとしてJ3のテゲバジャーロ宮崎と対戦した時のことだ。
「ボランチの選手がいない。3本目で一度やってみてくれ」
前後半90分のあと、30分間の3本目が組まれていた。しかし、前半途中で新キャプテンのMF柴崎岳が負傷退場。アジアカップを戦う日本代表の佐野海舟もおらず、指揮官は意外な選手に声をかけた。
昨シーズンに川崎フロンターレから加入し、FW鈴木優磨の14ゴールに次ぐチーム2位の5ゴールをマーク。J1通算で151試合に出場して29ゴールをあげている28歳のストライカー、知念慶は青天の霹靂に近い思いを抱きながらピッチに立った。
そして試合後にポポヴィッチ監督からかけられたのは、気に入ったプレーを称賛する時の口癖であるイタリア語の感嘆詞と、今後を大きく左右しそうな言葉だった。
「ブラボー! ボランチの選手だ!」
続くJ2の徳島ヴォルティスとのトレーニングマッチでは、1本目からボランチとしてスタメン出場した。
そして水戸ホーリーホックとの2月10日のプレシーズンマッチでもボランチとして、カシマサッカースタジアムのファン・サポーターの前で先発した。
「中学生時代にちょっとだけボランチでプレーしましたけど、やはり視界が全然違いますよね。後ろからも前からも敵が来るので、常に首を振っていないとダメだし」
視界だけでなくボランチに求められる仕事はFWと全く異なる。苦笑しながらも知念はポジティブな言葉を紡いだ。
「最初は僕自身もびっくりしましたし、ちょっと複雑な思いもありましたけど、今は普通に嬉しいですよ。意外と(ボランチで)やれているのかな、と」
ポポヴィッチ監督は気まぐれで知念をボランチでプレーさせたわけではなかった。 持論として「いい選手は、どこでもプレーできる」を謳うなか、パスやトラップを含めた基本技術の高さ、体の芯の強さ、相手を前にしての落ち着きぶりなど総合的に知念を評価していた。
もちろん完全なコンバートではない。水戸戦では後半開始とともに本来の最前線へスイッチ。77分までプレーした知念は、こんな言葉も残している。
「逆にFWになってからの方がやりづらくて。ずっとボランチだったからか、フォワードではどのようにプレーしていたのかと思いながら、ちょっとモヤモヤしていまし た」
日本代表として二度のワールドカップに出場した福西崇史は、FWとして加入したジュビロ磐田で、当時のハンス・オフト監督の勧めでボランチに転向した。ストライカーとして活躍した久保裕也は、MLS(メジャーリーグサッカー)のシンシナティでボランチとしてプレーしている。
ポポヴィッチ監督も「その選手が(新しいポジションを)どのように感じるかだ」とキーポイントを口にする。そして知念自身は「新鮮で楽しい」と本音を明かした。
「ぶっちゃけ、やっていて楽しさを感じているのはボランチの方ですね。正直フォワードにずっとこだわりがあった、というタイプでもないので。今はボランチとして覚えるべきことが本当に多くて、何だか子どもの頃を思い出している感じです」
FWとボランチの「二刀流」で新シーズンへ臨みながら、どちらかと言えば、比重は後者に傾いている。ボランチがどのようなプレーをすれば相手チームが嫌がるのかは、川崎時代のレジェンドである中村憲剛のプレーに関する記憶を介して明確に分かっている。
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もちろん、一朝一夕に同じプレーができるとは思っていない。それでも柴崎の離脱期間が読めない状況で、ボランチという新境地に目を輝かせる知念が放つ存在感は、名古屋グランパスとの開幕節が近づくにつれて日に日に大きくなっていく。
取材・文/藤江直人