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【なでしこ】現地取材&検証:谷川萌々子が責任を痛感したスペイン戦の失点、背景にあったチームとしての挑戦

スペイン戦後、なでしこジャパンのニルス・ニールセン監督から励まされる谷川萌々子(左)。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

パスを奪われたGK山下杏也加は再三最終ラインを上げるように指示を出していた。「蹴りたくもなったが」今回は…。

[親善試合] スペイン女子代表 3–1 日本女子代表/2025年6月28日4:00/エスタディオ・ムニシパル・デ・ブタルケ

 なでしこジャパン(サッカー日本女子代表)がスペイン女子代表との国際親善試合、田中美南の見事な左足反転シュートで先制したものの、そこから3失点を許し、1-3の逆転負けを喫した。

 2023年の女子ワールドカップ(女子W杯)のグループステージ、優勝国となったスペインに日本はカウンターを有効的に発動させて、4-0の勝利を収めている。

 昨年のパリ・オリンピックでも同じように速攻を狙った。しかしスペインに75パーセントのボール保持を許し、ほぼワンサイドゲームで1-2の敗戦を喫した。

 自陣に引きっぱなしでは、もう成長は見込めない。

 そこでニルス・ニールセン監督が掲げたのは、スペインから受ける圧力の中でも“ボールキープ”に挑むことだった。指揮官はチーム立ち上げから、どんな強豪にも日本の武器がどこまで通用するのか。ボールポゼッションしながら崩そうと、一貫したトライを続けている。

 現地でのトレーニングでも、蹴り急がずパスを優先してボールを動かすこと、GKからのビルドアップにも重点的に取り組んだ。

 スペイン戦の66分、痛恨の逆転弾となった2失点目。GK山下杏也加のあまり角度のない縦パスを、谷川萌々子が対応をしようとしたものの、相手にファウル気味だったがインターセプトされ、19歳のヴィッキー・ロペスに決められた。

 ただ、それまでGK山下はボールが途切れる度、最終ラインを上げるように何度も指示を出していた。押し込まれると背後を取られるのを怖がりラインを下げる、日本の“悪い癖”が出ていたのだ。

 結果、山下から谷川萌々子へのパスは、後ろ向きの谷川に対し、完全に相手優位な状況での“ハメパス”の選択となった。

 自陣に敵味方が密集したなか、どこまでボールキープ戦略を遂行できるのか。その難しい状況でもパスを通そうとした。

 ただし、それまで通っていたパスもあった。それだけに、そのワンプレーだけを責めるべきではない。むしろ、チームのいろいろな課題が集約された教材になる失点になったと言える。

「ブロックを引いても、人数をかけてクロスを入れてくるのがスペイン。(セカンドボールにも対応してきて)やっぱり上手さを感じました」

 今回は前線が良い動き出しをするシーンもあった。

「(スペインは)ブラジルよりも(最終ラインなど)スピードがないので、裏を行けるかなと思い、蹴りたくなってしまうのも分かります。もちろん、そこのクオリティが良ければ1点奪えますが……」

 今回はどこまでスペイン相手にパスをつないで、ゴールへつなげられるか。そのチャレンジに重きを置いた。そのなかでのミスであり、決して谷川だけの責任とは言えないシーンだった(女子W杯や五輪であれば、 VARの介入で、ファウルによりノーゴールになっていた可能性もある)。 

 ニールセン監督は前回対戦よりもやるべき狙った形に持ち込めた時間もあったと一定の評価をしていた。そして「怖がらずにもう一本つなげれば違う展開も見えたかもしれない」とも語っていた。

 せっかくの世界女王との対戦だっただけに、交代選手を含めて、よりベストな戦いで挑む手もあったはずである。一方、指揮官のそういったプロセスであるという挑戦の意図も理解できる。

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 相手は女子EUROを目前として、完成度の高いチームだった。それに対し、まだ自信を付けている段階の新生・なでしこジャパンだっただけに、意義はあるが、一方で、痛い失点と敗戦になった。

Posted by 早草紀子