W杯イヤーなでしこ始動。宇津木瑠美が驚いた”嬉しい世代間ギャップ”
日本女子代表が始動。宇津木瑠美(中央)は変わらず、縁の下の力持ちとしてチームを支える。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA
アメリカ代表の選手からの指摘が心に残っていたが――。
FIFA女子ワールドカップ(6月、フランス)が開催される2019年に突入し、なでしこジャパン(日本女子代表)は1月31日から5日間、28人(そのうち鮫島彩はコンディション不良のため不参加)による候補者合宿を行った。
所属先によってはまだオフ中でもある1月の活動は、身体が仕上がっていないためケガを引き起こす可能性も少なからずある。このタイミングでのコンディション悪化だけは何としても避けたい。
高倉麻子監督は事前になでしこジャパンの始動が早くなることと、コンディションを整えるためのメニューを選手たちに伝え、万全の態勢で始動の日を迎えた。その甲斐もあり選手たちはとても良い動きを見せ、合宿4日目には男子大学生との9対9のゲームでは、アグレッシブな戦いも見せ、上々の滑り出しを切った。
昨年のU-20女子ワールドカップを制したチームから、さらになでしこチャレンジプロジェクトから若い戦力も引き上げられた候補者合宿。「相手の裏を取るパスにはもっとチャレンジしたい」(長野風花=ちふれASエルフェン埼玉)、「どこからでも仕掛けられて、どこからでも打てるようになりたい」(宮澤ひなた=日テレ・ベレーザ)と、若い選手たちは意気込んで取り組んでいた。
そんな若い世代とクールダウン時に寄り添うようにランニングしてコミュニケーションをとっていたのが宇津木瑠美(シアトル・レインFC)だった。唯一海外組からの参加の宇津木はピッチ外での対話を大切にしている。限られた期間のなかで共通意識を持つため、オフザピッチでの意見交換が必須だと考える。
「(ピッチ外の方が)大変かも(笑)。でも、そこでできることがたくさんあるなら、それを大事にしたい」と、彼女は年上の世代になっても、常に縁の下の力持ちという立ち位置を崩すことはない。
あらゆるサッカーに触れてきたからこその視点でもある。同じプレーでも見え方によっては180度変わる。要はどう受け止めるか。
例えば日本が得点した際で言えば――。
「アメリカ代表の選手からは、『止められなかったたけで、私たちは日本のゴールまでの形はイメージできていた』と言われたんです。だから、私たちは彼女たちが想像できる範囲内でしか、まだまだプレーできてないということです。
でも、私たちがアメリカに失点する時は『そんなところからシュートを打たれても、入れられちゃうんだ』という想像できない失点が多かったりします。私はそのことに対し、フラストレーションを抱いてきました」
宇津木は相手のイメージを覆す、あるいはその上を行く攻撃ができていないことが悔しいと感じきたという。
ところが、なでしこジャパンの後輩たちは、また別の角度の感覚を持ち合わせていたことに、宇津木は驚かされたという。
「想像されたとしても止められないんだったら、私たちの勝ちなんじゃないか、って(笑)」
なるほど。どちらも間違いなく“正解”である。
「そのポジティブさと上手く間を詰めていければいいなと思います。自分たちの思った通りに行く時間帯ばかりではですから」
だからこそコミュニケーションが重要と考えているのだ。
試合では判断のすべてが共通理解の上に成り立っていなければ、なでしこらしいサッカーは展開できない。
「これまでは、想定内のことをどれだけ正確に対処したり、成功率を高めることにフォーカスしてやってきたけれど、ここからはどれだけイレギュラーな状況に対して自分たちが対応して、そのイレギュラーをどれだけ自分たちの形に持って行くかが大切になってきます」
宇津木をはじめベテラン勢は2月末から参戦する「シービリーブスカップ(SheBelieves Cup=アメリカ、2月27日~3月5日までアメリカ、イングランド、ブラジルと総当たりで対戦)」で、そのいい塩梅のラインを見極めようとするはずだ。ここからは、なでしこジャパンでの経験が浅い選手たちも受け身に回るべきではないだろう。
昨年U-20ワールドカップを制した世代から2011年に女子ワールドカップ優勝を成し遂げたメンバーまで、日本女子代表全体として、大切なところの約束事を共有し合えれば、6月、なでしこジャパンの最高のプレーで、フランスの観客を沸かすこともできるはずだ。
取材・文:早草紀子
text by Noriko HAYAKUSA