横浜FMの『ビジャ対策』。GK朴一圭が明かす「間合い」を巡る駆け引き
神戸のFWダビド・ビジャ(左)を抑えるため、横浜FMのGK朴一圭が心掛けたこととは?(C)Takamoto TOKUHARA (C)SAKANOWA
出方を探り普段より少し高めに位置取り。狙いは「いかにシュートを打たせないか」。
[J1 12節] 横浜FM 4-1 神戸/2019年5月18日/日産スタジアム
横浜F・マリノスのGK朴一圭がヴィッセル神戸戦、再三にわたるファインセーブを披露し、アディショナルタイムの1失点に抑えて勝利に貢献した。今季これがリーグ7試合目、出場試合の成績は4勝2分1敗。
この試合を通じて、朴が心掛けていたのは、バルセロナFCやスペイン代表で活躍してきた歴戦のFWダビド・ビジャに、いかにシュートまで持ち込ませないか、だったという。
横浜FMの「ビジャ対策」――。朴が試合後、その駆け引きについて、とても興味深い話をしてくれた。
「(ビジャは)裏への動き出しが、すごく上手だとずっと思ってきました。だからまず、とにかく裏のスペースで、いかに間合いを詰めるかを考えていました。シュートを打たれる前の段階で、自分が飛び出してカットできるシチュエーションがおそらく増えるだろう、と想定していました」
ビジャにスペースを自由に使わせない、スペースを攻略させない――。朴は「その打たれる前、裏への飛び出しをより意識して守っていました」と明かした。
今回はその駆け引きで上回れた。そこで改めて手応えも得られた。しかし、これは初対戦だからこそ上手くハマったこと、とも捉えていた。
「今日に関しては、相当上手くできたと思います。ただ、相手チームは、まだ自分についてJ1でのデータ量が少なく、プレースタイルなどあまり知らなかったことも関係したと思います。今後の対戦でどうなっていくか分かりませんが、今日は『俺のこと知らないだろううから』とも思い、その状況も生かして、少し多めに前へ出て行くこともできました」
高速アタッカーの古橋亨梧が出場していたら、また別の展開になっていたはずだ。ただ今回は、ウェリントン、ビジャ、田中順也という個の破壊力のあるアタッカー陣に対し、朴を中心に主導権を握る守備網を築くことができた。
「普段は少し引いたところからスタートしていましたが、(神戸の)パスの出し手を含め、あまり俺のことを見ていないと察知して、少しいつもより高めからプレーをスタートさせました。もちろん、あまり高すぎると今度は一発を食らうかもしれない。(駆け引きですね?)はい、そこのところでは、今日は勝てたのかなと思いました」
それでもビジャはゴール前の混戦をものともせず、4本のシュートを放ってきた。だがチアゴ・マルチンスや畠中慎之輔ら横浜FMの守備陣が体を張り、シュートコースも限定させたことで、決定機も1回に抑えた。朴は振り返る。
「集中が緩んだところで前節(C大阪戦/●0-3)はやられていました。ただ練習からシゲさん(松永成立GKコーチ)と取り組み、『良い準備をしていれば、必ず止められるから』と言われていて、冷静に対応できました」
点差は開いたが、そういった駆け引きの一つで誤っていれば、どう転んでいたかは分からない。タレントは揃うだけに、そういう緊張感は常にあった。ただ、ホームのサポーターの声援を背に受けたトリコロールの背番号1は、スペイン代表59得点を記録するストライカーとの駆け引きで”勝利”し、J1で戦っていく自信をまた一つ深めた。そして勝点3を獲得したチームも6位に順位を上げた。
取材・文:塚越始
text by Hajime TSUKAKOSHI