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左足の浮き球でチェルシー撃破。川崎MF中村憲剛が明かすあのアシストの舞台裏

チェルシーに勝利!明治安田生命選定のMOMに選ばれた川崎の中村憲剛。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA

10分間の出場でのMOM選出に「みんなはズルイと言っていました」。

[JリーグWC] 川崎 1-0 チェルシー/2019年7月19日/日産スタジアム

 川崎フロンターレのMF中村憲剛がJリーグワールドチャレンジ2019のチェルシーFC戦、途中出場から一瞬の判断が光る頭脳派クロスでレアンドロ・ダミアンのヘディング弾をアシスト。これが決勝点となり、川崎がプレミアリーグのメガクラブ相手に1-0の勝利を収めた。

 中村は主催者が選定する「明治安田生命マンオブザマッチ」に選ばれ、試合後「みんなから『ズルイ』と言われました」と申し訳なさそうに明かした。

 まず前半、防戦を強いられるチームを、中村はベンチからどのように感じながら見守っていたのか。

 中村は振り返る。

「正直、これは結構しんどいなと感じました。ウチが普段Jリーグでやっているようなことを相手にやられて、自分たちがボールを奪いに行っても取れず、間にパスを入れられて前を向かれる。で、下げられてしまい、前には(小林)悠しかいなかった。これをどう打破するか」

 ただ、スコアレスで折り返し、勝機を見出すことができた。

「1点決められていたら終わっていました。ただ、ソンリョンもDF陣も球際で体を張ってくれて、後半は人を交代しながら、暑さで向こうは体力も落ち、スペースがどんどんできてきていることは感じていました。明らかに前半とは違ってきていた。それで残り10分で呼ばれ、『何ができるか』を考えました」

 徐々に空いてきたスペース――。そこを攻略できればチャンスはあると、中村はその一瞬を掴もうとした。

「相手の左サイドバックは、(脇坂)泰斗とカズ(馬渡和彰)のところのマークの受け渡しがいまいち上手く行っていなかった。裏のスペースも空いていて、一本出して、そこを突いていこうとしました。(アシストになった)ショートコーナーは、新チームということでセットプレーのところは(マーカーの付き方など)まだ細かいところまで仕込んでいないはずで、実際、自分のところに誰も来なかった。これはチャンスだと思い、あとは正確につなぐことを考えて、最後はダミアンがよく決めてくれました。わずかな出場時間でも、やるべきことは変わらず、それが今回は上手くいったケースだったと思います」

 決勝のアシストは、まさに”中村憲剛らしい”と言える、数秒の中に様々なメッセージを込めたクロスだった。左足で巻き込むようにフワリと上げて、あえて滞空時間を長くして、味方が合わせるタイミングを作る。申し分ない時間と空間の作り方、フィニッシャーに大切な贈り物を託すような優しいアシストだった。

 中村はこのキックを選択した意図を、次のように解説した。

「ショートコーナーの時点で、まず相手の陣形が崩れていました。ニアで俺がボールを持った瞬間、人数をかけて来ていた。そこで『ファーは空いているな』と感じました。ただ、ダミアンがフリーで空いているところまでは見えていなかった。

 キックの滞空時間を長くすれば、誰かしら大きい選手が合わせてくれるはずだ、と。少し高すぎたけれど、ダミアンが上手く合わせてくれました。それまでずっと低いキックも、中途半端に高いキックもすべて引っ掛かっていた。だから思い切って上げてみようかなと判断し、それが上手くいきました」

 なかなか奥深い! あの瞬間、そんなあらゆる思考を巡らせたなかで咄嗟に最良の選択をして、殊勲のゴールをもたらした。川崎のバンディエラは、そのように味方の特長を引き出しながら、今回の経験をも吸収し、まだまだ進化を遂げていく。

[取材・文:塚越始]
text by Hajime TSUKAKOSHI

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