【川崎】「4年後に帰ってきてほしい」新人の脇坂泰斗がユース時代に交わした約束
プリンス脇坂に期待も注目も集まる。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA
向島スカウトが常に試合を視察。大学生活、フロンターレへの思いはむしろ強まっていった。
「昇格は4年間見送りだ」
脇坂泰斗が川崎U-18に在籍していた高校3年の10月だった。庄子春男ゼネラルマネジャー、強化部の向島建スカウト、川崎U-18の今野章監督、そして脇坂と両親による、進路に関する面談の席上でのこと。脇坂は庄司GMからそのようにトップチームに昇格できないと告げられ、大学進学の道に進むことになった。
ただ、このようにも言われた。
「できれば4年後に帰ってきてほしい」
その言葉を胸に、脇坂は阪南大に進んだあとも、「ずっとフロンターレを意識していた」と言う。
とはいえ、もちろん4年後、川崎に加入できる保障など一切ない。そんなことは重々承知していた。
「しっかり結果を残さなければ、トップチームに行けるわけがない。ただ1年生の開幕戦から試合に出場できて、それからスカウトの向島さんが連絡を取ってくださったり、こまめに試合を観に来てくださったりしてくれました。むしろ日に日にフロンターレに行きたい気持ちが強まりました」
川崎のトップチームで必ずプレーしたい――。脇坂のその思いは増していった。
大学4年間での収穫として、「1年生からずっと試合に出させてもらい、試合経験を積めたこと。4年生の時にはユニバーシアード代表として世界の選手と戦う機会に恵まれ、優勝もできました。滅多にできない経験を積めました」と、実戦を積み重ねながら成長できた点を挙げた。
ただ、プロになれた『だけ』で、一切浮かれてはいない。大学に進んだことも決して遠回りでなかったですね、と聞くと、脇坂は小さく首を傾げた。
「遠回りではなかったことは、これから証明しなければいけません。現時点ではまだスタートラインに立っただけ。大学4年間を過ごしてきた意味を、これから本当に発揮しないといけない。現時点では遠回りだったのか、あるいは近道だったのか分からないので、ここから証明していきます」
すでに昨年の川崎のキャンプに練習生として参加しており、「今回はより積極的に参加できています。失うものはないので、一次キャンプからチャレンジしてきました」。
中盤のさまざまなポジションをこなせるのが特長だが、トップ下が主戦場だ。2016年のJリーグMVPに輝いたあの日本一の選手がいるポジションである。
「トップ下は憲剛さんがいて、本当に良いお手本になります。一つひとつ見ながらやらせてもらっています。(激戦区だが?)もう、やり甲斐しかないです(笑)。ピッチに立ったら年齢は関係ありませんが、見本になる方が身近にいる環境なので、どんどん吸収していきます」
ちなみに大学でいつしかついたニックネームが『プリンス』。そのことに触れると、「少し恥ずかしいです……」と、爽やかな笑顔をこぼした。洗練されたプレー、負けん気の強さと男気、抜群のルックス――。人気を集めそうだ。
取材・文:塚越始
text by Hajime TSUKAKOSHI