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【考察】単なるバックアッパーではない。リバプール南野拓実獲得、真の狙いとは?

南野拓実。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA

3トップが最強すぎるが故の悩み。

 イングランド・プレミアリーグのリバプールFCがオーストリア・ブンデスリーガのレッドブル・ザルツブルクの南野拓実を1月に獲得する――。12月12日、リバプール界隈はその一報に沸いた。するとザルツブルクのクリストフ・フロイント・スポーツダイレクター( SD )がリバプールとの交渉は認め、クラブ公式ツイッターで「南野について話し合いをしているのは事実。あのようなクラブが我々の選手に興味を持ってくれているのは光栄なこと」と発信し、この話が単なる噂ではないことが明らかになる。

 契約解除金は750万ポンド(10億4000万円)で、ユルゲン・クロップ監督は近年のプレミアリーグではその価格が”格安”なことにも気付き、ゴーサインを送ったと言われる。

 ただ、リバプールが南野を必要とした真の理由は他にある。では一体なぜか? 現在プレミアリーグ首位をひた走るリバプールだが、そのチーム実情、そこから浮かび上がる南野の役割について考察したい。

 リバプールはプレミアリーグ17節を終え、16勝1分の勝点49(42得点・14失点)で首位に立ち、2位のレスター・シティFCと勝点10差をつけている。

 とりわけ前線3枚のサディオ・マネ ロベルト・フィルミーノ モハメド・サラーは相変わらず、突き抜けた強力のアタックを見せ付けている。マネとサラーはリーグ戦それぞれ9ゴールずつ決め、フィルミーノは4ゴール・4アシストを記録し、チームをけん引している。

 しかし昨シーズンから指摘されきたのが、この前線3枚に続く存在――バックアップの層の薄さだ。彼らの負担は、あまりに大きくなりすぎている。中でもセンターフォワードのフィルミーノは唯一無二で、彼が不在の試合では攻撃のクオリティが落ち、まったく別物になる。

 フィルミーノが担う役割は、単純にゴールだけではない。チームの攻撃が上手く行かない時は中盤まで下りてビルドアップに加わりチャンスの起点になる。両ウイングのサラーとマネが気持ちよくプレーするスペースを作り出すなど気を利かせられる。

 守備での貢献度も高く、要求される最前線からのハイプレスを怠らない。相手のビルドアップの始点となるセンターバックやゴールキーパーにもプレスをかけ、一度のみならず、二度、三度追いをできる。「数字」には現れていないが、この献身的な仕事ぶりが絶好調なチームを支え、なおかつ、けん引してきた。

 フィルミーノ不在時はデイボック・オリギがトップに入ることが多い。ただし彼は生粋のCFタイプ。中盤まで下がることはなく、プレスも緩い。オリギの得点能力の高さは評価されてきたが、フィルミーノとはあまりに役割とタイプが異なる。そこが一つの不安であり、盤石を期すための課題となっていた。

 フィルミーノ不在時に、その役割を理解してプレーできる選手――そんなタレントが求められていたのだ。

符号した「ランゲニック」門下の両チームの戦術。

  そこで白羽の矢が立ったのが(このまま行けば……)南野だ。

 リバプールを率いるドイツ人指揮官のユルゲン・クロップは、レッドブルグループにラルフ・ランゲニックが徹底してプレッシングとストーミングを浸透させてきたことを十分理解している。その基本的な戦い方は、リバプールとの共通項でもある。

 南野はザルツブルクで、右のサイドハーフ、そしてセンターフォワードまたはトップ下のポジションを務めてきた。

  南野はプレッシングを怠らず、中盤まで下がってボールを引き出すこともできる。クロップはフィルミーノ的な役割を託せるはず、とイメージが沸いたに違いない。

  また、サラーやマネのバックアップとしての役割も期待できる。加えて、リバプールが4-2-3-1を採用すれば、現在の3人+トップ下・南野という組み合わせも可能になる。

 単なるバックアッパーではない。南野が加われば、攻撃のバリエーションやオプションも増え、新たな攻撃のパターンも作り出せるかもしれない。リバプールが求めていた理想のタイプとしっかり合致したと言える。

  とはいえ当面はサラー、フィルミーノ、マネというワールドクラスのバックアップという位置づけになるだろう。途中出場や3人のいずれかを休ませる時、出場機会を得ていく形からステップを踏むことになるだろう。

 それにリバプールとレッドブルグループの戦術は親和性があるものの、やはり別物でもある。南野と同じレッドブル・グループのRBライプツィヒからリバプールに加入したナビ・ケイタの場合、彼はすぐフィットすると言われていたが、実際にフィットするまで半年以上がかかった。

 また、クロップは戦術にフィットしない選手を、長い時間かけては使わない傾向にある。ファビーニョやウェルダン・シャキリがその例にあたる。大物の加入ともてはやされたものの時間が掛かった。

 香川真司がドイツ・ブンデスリーガのボルシア・ドルトムントに加入した時、クロップは「1、2年はかけて環境に適応すればいい」と長い目で見守るつもりでいたが、いきなりブレイクを果たした。今回、2024年までリバプールとの契約を更新したクロップも、南野について、基本的には即結果を求めず、起用しながら育てていく(自信を付けさせていく)と見られる。だから、少々起用されないことで「ダメ出し」をする必要はない。

  プレミアリーグは選手のサラリー高騰化に伴い、世界の一流の人材が集中してきた。その傾向がより強まるなか、日本人選手は門をなかなか叩けずにいた。そうしたなか、南野が首位のリバプールに加わり結果を残せば、今後のイギリス内での日本人選手の評価を変えることにもつながる。期待づくめと言えるドラマの始まりへ、まずは正式発表が待たれるばかりだ。

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[文:小林優麻]

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