【コラム】なるほど、浦和につながる。元徳島の小林伸二監督がリカルド戦術を紐解く
昨年の徳島はJ1昇格入れ替え決定戦で1-1と引き分け、規定により昇格ならず。遂にリベンジへあと勝点3だ!写真:上岸卓史/(C)Takashi UEGISHI
プレッシングとリトリートを使い分け。攻撃面では「ボールを保持するだけでなく、ドリブラーが剥がしたあと――」。
J2リーグの徳島ヴォルティスがギラヴァンツ北九州に4-1の勝利を収め、7年ぶりのJ1昇格に向けた勝点の“マジック”を「3」とした。あと4試合、徳島が勝点3を上積みするか、3位の長崎が勝点3を落とせば、昇格圏内の2位以内が確定する。
とりわけリカルド・ロドリゲス監督の浦和レッズへの監督就任“内定”報道が出た時、ちょうど京都サンガF.C.に敗れたタイミングだったが、そこからしっかり3連勝したのはさすがだ。選手たちが勝負どころ、踏ん張りどころを見極めた戦い方を見せている。
個人的には2013年から2017年まで、サッカー誌時代に徳島を担当していた。J2から四国勢初のJ1昇格を果たし、1年で降格し、長島裕明監督時代を挟み、リカルド体制発足1年目まで。リカルド・ロドリゲス監督にインタビューする機会にも恵まれた。
そんなリカルド監督の浦和次期監督の就任に向けた噂の報道後、「今、徳島は3バックじゃないか」「リアクションサッカーではないか」、「浦和と合わない!」といった否定的な声や記事も見かけた。そんなことないのではないか? と思うものの、そこまで最近の徳島の試合を丁寧にチェックしてきたわけではなかったので、むしろ自分の不勉強を戒めた。一方で、やはりそれは表面的であり、ちょっと違うのではないか? といった違和感のようなものも覚えていた。
リカルド・ロドリゲス監督が徳島でどのような理想を追いかけていたか。そこからどのような現実的なスタイルに行き着いたか。そのあたりはまた改めてレポートする機会があればと思う。
リカルド監督は当初4バックを採用していた。ただ相手がリアクションで守備を固めて対抗することが増えたため、最終ラインを削り中盤を増やす3バックも選択肢に入れ、それがメインシステムになっていった。今徳島が3バックであることは、もしも浦和を率いることになった場合、あまり否定的というか、ミスマッチだと目くじらを立てることではないかもしれない。
徳島対北九州戦のあと、北九州の小林伸二監督がオンラインによる記者会見に応じた。7年前に徳島を初のJ1昇格に導いた、ヴォルティスの歴史を語るうえで欠かせない最重要人物の一人である。
その席で現在のリカルド・スタイルについて「J1昇格に値すると思いますか?」という質問に、小林監督は「十分、あると思います」と答え、次のように理由を続けた。記者のなかで、上記のようなモヤモヤしていたものを解消してくれる、なるほど、と膝を打つ内容だった。
「まずボール保持する時間が長いのはいいことで、個の能力も高く、プレーの幅も広い。本気で連動して前からボールを奪いに行く時と、安易に行っても取れないと判断する時を使い分けています。またボールを保持するだけではなく、ドリブラーがいて、個人で剥がす能力も高い。そこで剥がしたあとの数的優位を作り出した状況を、上手く活用していると思います」
また、以前の徳島と異なる点についても挙げる。
「点を取ったあと、安定してバランスよく守ろうとするところも、3年前にはなかったところだと思います。安定感が増してきていて、逆にそこを突きたかったですが、突かれてしまいました。リアクションではなく、アクションサッカーでJ2の1位を目指し(7年前は基本的にはリアクションだった)、J1にチャレンジすることは、また違った意味で大きく、すごくいいこと。私たちも学ぶべきものがあり、得ていきたいです」
基本はポゼッションだが、リードをすればリアクションにも変異する。システムも可動する。対戦相手や試合状況に応じ、ピッチ上の選手たちが判断しながらそのあたりを調整する。あるいはベンチからも指示が出る。
数的優位を作り出したあとの攻撃の形もデザインされている。何より90分を終えた時点で勝利している――というところから逆算した戦い方が、選手でありチームに浸透している。
人によっては、徳島がリードしている時間が長いため、リアクションのイメージも強いのかもしれない。
徳島はこの3連勝で一つ突き抜けた。この小林監督が挙げている客観的な強さのポイントが改めて徹底されれば、あと1勝を挙げてのJ1昇格、そしてJ2制覇を、自分たちの手で掴み取ることができるはずだ。
もしもリカルド・ロドリゲス監督が浦和の監督に就任する場合――。基本的には大槻毅監督が植え付けようとしていたコンセプトとつながる部分はある。
とはいえ、課題はピッチ内外にいろいろありそうだ。それは次期監督が「決定」してからまた考察したい。
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[取材・文:塚越始]