内田篤人”監督”が見せた指導者としての可能性。すでに備える重要な素質「選手を奮い立たせ、起動させる力」
内田篤人ロールモデルコーチ。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA
U-20日本代表の紅白戦、白組を指揮。何度もかけていた「素晴らしい」という言葉に選手は触発されて。
「素晴らしい――」
春の淡い日差しのもとピッチで汗を流すU-20日本代表候補に向けて内田篤人の声が響く。
内田からそのプレーを称賛された選手たちは、コロナ禍によってU-19アジア選手権、U-20ワールドカップが中止となり、世界に挑戦する機会を失ってしまった世代だ。だが、将来を見据えてチームの活動は続けられ、レベルアップを図るため3月22日から3日間の短期合宿が行われた。
最終日の24日には25分ハーフの紅白戦が実施された。紅白戦のチームを指揮したのは、コーチの冨樫剛一とロールモデルコーチとしてチームに帯同している内田だ。
ここで白ビブスチームを率いる内田は、前線からプレスをかけて相手陣内の深い位置でボールを奪ったFWや、最終的にはミスとなっても意図のある連係を見せた選手たちに向けて「素晴らしい」という言葉を何度もかけた。
内田が言葉を発した場面はそれだけではない。他にも積極的な姿勢を貫かせようと相手が後方でボールをキープしている際には「下がらない、下がらない」と指示を出し、「ラスト、ここが走るところ」と即席のベンチに座ることなく、常にヤングサムライブルーたちを鼓舞し続けた。
選手たちはそうした言葉に応えるように機敏な動きをピッチで見せる。設定されたプレー時間が短かったため、両チームともキックオフから激しい攻防を展開したゲームは、白ビブスチームのFW染野唯月が2ゴールをゲット。守備陣も無失点で切り抜け2-0で勝利を挙げた。
ゲーム中での指示に、試合前やハーフタイムにボードを使って選手たちに動き方を伝える、内田の指揮ぶりはなかなか様になっていた。わずか50分間の紅白戦で、ましてチームを形成する選手の人数が12人と限られ、交代による采配の妙も発揮できない試合の勝利で、彼の指導者としての能力を評価するのは言うまでもなく早計だろう。
しかし、この紅白戦で指揮を執る内田の姿を見る限り、彼には指導者としての資質があるように感じた。
もちろん、指導者として大成するには、勝利へと導くためのあらゆる能力を学ばなければならない。内田自身がこれから監督を目指す道を望んでいるのかは定かでない。
ただ、内田は指導者として重要なひとつの要素をすでに手にしているように見える。
それは選手たちを奮い立たせ、起動させる力だ。選手たちにこの指導者のもとで戦い、勝利したいと思わせるカリスマ性だ。現役時代に世界のトップレベルで戦った経験に基づく言葉には説得力があるだろう。そうした本物だけが発することができる言葉の力はもちろんのこと、リーダーとしての人間力を内田は持っている。これは誰もが持っている素質ではない。
サッカーの才能とともに生まれ持った人の心を揺さぶれる資質を、今後どのように活かしていくのか。わずか50分だったが、内田の今後の動向が楽しみになる試合だった。
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[取材・文・写真:徳原隆元]